野球善哉BACK NUMBER
安打記録がかかる打席で四球を選ぶ。
西武・秋山翔吾の伝説は今始まった。
posted2015/07/15 12:20
text by
氏原英明Hideaki Ujihara
photograph by
NIKKAN SPORTS
お立ち台に上がっていた秋山翔吾のインタビューを聞いて、なぜか身震いがした。
7月14日の西武-楽天戦。延長10回裏、主砲・中村剛也の3点本塁打で、西武がサヨナラ勝ちした。中村の一発は見事というほかなかったが、それと同等に秋山が評価されたのは、31試合連続安打中で日本新記録を目前にしながら、安打を捨てて、四球で出塁したからである。
「連続試合ヒットを期待してきてくださったと思うんですけど、チームとして戦っているので、明日も応援しにきて下さい」
秋山は、そういってインタビューを締めた。
どのような記録も、いずれは途切れる時がやってくる。しかし、それが現実に訪れるのは、メディアの人間にとっても寂しい瞬間だ。
だがそれでも、秋山は「チームのために仕事ができて清々しい」と表現したのだから、彼の姿勢には恐れいる。
今季の秋山は、当たりに当たっている。
開幕3連戦で一気に5安打を放つと、そこから勢いが全く衰えない。7月12日までに20回もの猛打賞をマークし、史上3位のペースでシーズン100安打を記録するなど、その安打製造機ぶりには、驚くほかない。その勢いのまま、連続試合安打の球団記録も樹立した。これは本人も「意識した」と振り返っているが、その後も安打を量産し続け、この日の時点では連続試合安打記録まであと2試合と迫っていたのだった。
「1番打者としてのあるべき姿」はぶれなかった。
殺到する取材には多少なりとも辟易としてはいたようだが、秋山には常にぶれない信念があった。それが「1番打者としてどうあるべきか」というものだ。
安打ももちろん1番打者に求められるが、それ以上に出塁こそが大切だと彼は考えていた。記録云々にかかわらず、それこそが崩したくない姿勢だったのだ。振り返れば、秋山は常々こう言っていたものだ。
「1番打者として大事なのは、出塁を多くしていかにチームの得点に貢献できるか。これから記録がかかったりしていくと思いますけど、3打席ノーヒットで最終打席を迎える時があったとして、その打席でボールが先行した時にフォアボールを選べないのは、野球選手としてダメだと思う」