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安打記録がかかる打席で四球を選ぶ。
西武・秋山翔吾の伝説は今始まった。 

text by

氏原英明

氏原英明Hideaki Ujihara

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photograph byNIKKAN SPORTS

posted2015/07/15 12:20

安打記録がかかる打席で四球を選ぶ。西武・秋山翔吾の伝説は今始まった。<Number Web> photograph by NIKKAN SPORTS

14日終了時点、3割8分3厘でパ・リーグで堂々の首位打者に立つ秋山翔吾は、出塁率でも4割3分6厘で2位につけている。守備の評価も高く、いまや日本有数の外野手だ。

「もう一度あの場面がきても、僕は見逃すと思います」

 実際の結果としては斉藤が倒れ、1死走者なしの状態で秋山は打席に立った。

 楽天の4番手投手・青山浩二の投球は、3球続けてボール。その後、アウトローのストレートでカウントを取り、3-1からの低めの変化球を秋山が空振りしてフルカウントとなった。

「ベンチからも打っていいという指示だったけど、振れる球じゃなかった。自信を持って見逃しました。もう一度あの場面が来ても、僕は見逃すと思います」

 秋山の選択に、後続の打者が応えた。

 次打者・木村文紀の犠打で秋山は二塁へ。3番・浅村栄斗が死球で出塁した後、中村が左翼席に放り込んだ。

 秋山は、試合後にこう語っている。

「記録が途切れたのは残念ですけど、こうやって記録に挑戦できたことが自分の野球人生の財産になると思います。今日の第5打席目に四球で出塁して、中村さんのホームランが出て試合に勝てたので、改めてそのことを再認識しました。自信にもなりました」

 試合を決めるホームランを放った中村は、打席で感じていた秋山と浅村の想いをこう語った。

「(秋山は)記録がかかっているのに、しっかりボールを選んで四球を取ってくれて、アサ(浅村)も(死球)当っていたんで、何とかしたい気持ちは強かった」

「今までやってきたことは間違いじゃなかった」

 秋山の「再認識」という言葉には、彼の野球人としてのここまでの歩みが浮かぶ。

「1番打者として出塁することを目標にやってきて、それがいつの間にか『記録、記録』ということになった。でも今日こういう形で勝てたので、今までやってきたことは間違いじゃないと分かった。今の目標は、明日の第1打席に出塁すること。チームのために得点に絡む貢献をこれからもしていきたいと思います」

 連続安打記録がかかっていた打席で、チームの1番打者が四球を選び、主砲が試合を決めた。

 このことの意味は、西武にとってただの1勝よりも大きいとみる。

「あの四球からだった」

 そんな物語が始まったような気がして、身震いが止まらなかった。

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