「代打オレ」よりも、チームの未来を考えて。

　しかし結局この日、岩村は出場しなかった。試合ではいくつか「代打オレ」のチャンスがあったが、自分の名をコールしなかった意図を指揮官としてこう説明していた。

「負けている状況で自分が出てしまったら、このチームの未来はないですから。もちろん、誰であってもチャンスでそうそう打てるものではないですし、自分もまだ準備不足な部分は否めないんで。まずは、勝っている場面で出ようと思っています。そういう試合が増えればいいんですけどね」

　選手たちにより多くの試合、出場機会を経験させることで成長を促す。それが福島ホープスの明るい未来へと繋がるのだ。

　その歩みは遅くとも、着実に実を結びつつある。

　一例を挙げれば打線だ。チーム打率2割6分8厘はBCリーグ全体でも4位とまずまずの数字と言えるだろう。5月21日に行なわれた楽天の二軍との交流戦では、2－7と完敗ながら一軍経験もある釜田佳直から10安打を記録した。これには岩村も、「成長はしている」と目を細めていた。

「後れをとらないように火をつけていかないと」

「個人的にはまだまだだと思っていますけど、チームとして打ち出してくれたのは大きいです。僕自身、選手としてみんなにカバーしてもらっている部分はあるし、後れをとらないように火をつけていかないといけないと思っているくらい、成長はしてくれていると思います。

　でも、まだまだですよ。チーム打率で2割8分を残せば高いと言われますけど、僕は選手たちに『3割を目指せ』と言っています。今の数字で満足してほしくないんですね。そうやって一つひとつ階段を上っていってほしいですね」

　指揮官には尽きることのない向上心がある。その欲がチームに浸透し、少しずつ相手を脅かす武器を増やしていく。

　福島ホープスはまだ弱い。だが、チームには岩村明憲がいる。弱いまま終わるわけないではないか。