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リレー重視が実った4×100mの「銅」。
桐生祥秀らが手にしたリオ五輪切符。 

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松原孝臣

松原孝臣Takaomi Matsubara

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posted2015/05/10 10:40

リレー重視が実った4×100mの「銅」。桐生祥秀らが手にしたリオ五輪切符。<Number Web> photograph by AFLO

帰国後、桐生祥秀は世界陸上に参加するためにまずは10秒16を関東インカレで切ることを宣言した。個人とリレーと、日本のエースはどんな配分をするのだろうか。

個人では太刀打ちできなくても、リレーなら。

 アンカーの谷口は、レース後にこうコメントしている。

「ゴールした瞬間は信じられませんでした」

 選手自身の言葉にもあるように、まさに予想をいい方向へと裏切った大会となったが、実はそこには、蓄積されてきた努力が潜んでいる。

 日本陸上競技連盟は、リレー種目の強化に力を注いできた。それは、個人種目では太刀打ちできなくても、リレーなら創意工夫で差を縮めることができるという考えからだった。例えば、バトンパスの技術を磨いてタイムを縮めようという発想もその一つだ。

 日本は、練習量を必要とはするがよりスピードの乗った状態でバトンを渡せる「アンダーハンドパス」を取り入れてきた。強豪国をはじめ、多くの国では個人種目がどうしても優先され、こうしたチームとしての練習機会は少なくなる。その違いで対抗しようとしたのだ。

 2013年12月には、リレー種目の常設のナショナルチームのメンバーを発表。男子の4×100mでは15名が選ばれた。その後、このチームのメンバーで合宿を行なうなど強化を図ってきた。

 これが功を奏した。リレーでは走る順番によってコーナーをまわる、直線を走るだけなどコースが決まってくるため、その得意不得意に応じて走る順番が固定されている国が多い。つまり、走順への対応力が高くない。

 日本はナショナルチームとして練習をともにしつつ、走る順番が変わっても対応できるように取り組んできた。メンバーの入れ替わりによるマイナスを小さくできる対応力を培っていたことが、一見「急造」に見えるチームが機能した理由だった。

アジアでは無敵のはずが、中国に敗れた屈辱。

 また今シーズンへ向けて、奮起を促す材料もあった。昨年のアジア大会で中国に敗れたことだ。アジアでは絶対的な強さを持つはずの4×100mリレーで負けたことで、バトンパスの技術などを見つめなおし、改良を図ってきた。

 そうした下地もあっての今回の銅メダルだった。

 5月6日、チームは帰国。「バトンパスがスムーズに流れたことでタイムが縮まったと思います」(桐生)と振り返った。

 今年8月には北京で世界選手権を控えている。故障者たちも戻ってくれば、今後の大会へ向けて代表争いも激しくなるだろう。個人種目での個々の成長も今後の鍵を握る。

 代表争い、個人種目の強化、それが相乗効果を発揮すれば、世界大会でのこれからが、さらに楽しみになってくる。

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