ブックソムリエ ~新刊ワンショット時評~BACK NUMBER

ルイス・スアレスの異常な純粋。
~自伝に記された『理由』~ 

text by

幅允孝

幅允孝Yoshitaka Haba

PROFILE

photograph byWataru Sato

posted2015/04/13 10:00

ルイス・スアレスの異常な純粋。~自伝に記された『理由』~<Number Web> photograph by Wataru Sato

ルイス・スアレス自伝 理由』ルイス・スアレス著 山中忍訳 ソル・メディア 1800円+税

 その理由を教えよう。ナシオナル・ユースチームに所属する15歳のルイス・スアレスがゴールに貪欲だったのは、ガールフレンドの住むソリマルまでのバス代40ペソ(約200円)を工面するためだった。試合前、クラブ役員に「勝手なボーナス」を約束させていたという。

 昨年11月に『神憑』という評伝が出たばかりのスアレス。前作は彼が選手として大成するまでを支えた周囲の言葉によって構成されていたが、最新作の『理由』は、本人が自ら語る欧州移籍後を中心とした自叙伝。3度の噛みつき事件や南アW杯でのハンド事件、P・エブラとの人種差別論争など、話題にはこと欠かないストライカー(本が沢山出るわけだ)が一体なにを告白するのか?

15歳で一目惚れした妻への純真さ、そして本能。

 それぞれの事件に対する彼独自の見解は、十分読み応えのある分量と赤裸々さがある。だが、本書で注目すべきはそんなスアレスの姿勢だ。第1章は、なぜか15歳で一目惚れした妻ソフィとの恋話(こいばな)。だが、この物語(ストーリー)こそスアレスという人間をよく表している。スペインに引っ越した彼女とどうしても別れたくなかったスアレスの健気で懸命な純真さよ。彼は、真っ直ぐ一本の道しか見えない男なのだ。

 本能に駆り立てられた獣ができあがった理由はそこにある。試合中ずっとイライラしていると語る彼は極限まで自分を追い込み、鞭打ち、不可能を可能にしてきた男。ある意味で常人を超えた純粋さを持つ彼がダーティと呼ばれるのが不思議な気持ちになったら、あなたはもう彼のファンだろう。けど、本書を読んでそんな気にならない人がいるのだろうか?

関連コラム

関連キーワード
ルイス・スアレス

ページトップ