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悩ましき“友”と歩んだ、自由人ナッシュの引退。
~NBA史に残る司令塔が抱えた執念~ 

text by

宮地陽子

宮地陽子Yoko Miyaji

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photograph byGetty Images

posted2015/04/04 10:00

悩ましき“友”と歩んだ、自由人ナッシュの引退。~NBA史に残る司令塔が抱えた執念~<Number Web> photograph by Getty Images

 クリエイティブでプロフェッショナル、アンセルフィッシュでありながらオリジナル――。3月21日に正式に現役引退を発表したスティーブ・ナッシュを描写するときに使われる言葉だ。

 それらのどれもが彼をよく表しているが、さらに加えたいのが“自由人”だ。コート上では既存の型にはまらない自由自在なプレー・スタイルを築きあげ、コート外でも、いつも本音をストレートに発していた。その自由奔放な姿が、見ていて小気味よかった。

 そんなナッシュが引退に関して語った中に、印象的な言葉があった。選手としての彼を駆り立てていたのは、彼の中の“オブセッション”(執念、強迫観念)だったというのだ。ずっと付き合ってきたその感情を親友に喩え、「いつもその“友”と話し、応援し、喧嘩し、叩きのめされてきた」と振り返る。

オブセッションに駆り立てられ、囚われてもいた。

 身体が人より大きいわけでもなく、高校の頃は、アメリカではほとんど無名だった彼は、人一倍の練習をすることで世界の頂点に上り詰めた。それだけに、常にトレーニングをしなくてはいけないという切迫感を感じていた。休むと罪悪感で眠れなかったとも言う。

「そのおかげでここまでの選手になれた一方で、囚われてもいた」と告白している。自由人のように見えたナッシュが、実は自分の感情に囚われていたというのは、思えば皮肉なものだ。

 2年半前、引退前の最後の大きな賭けに出たナッシュは、まだ手に入らぬ優勝のためにレイカーズに移籍した。しかし、最初のシーズン2試合目で足を骨折、それが原因で神経根の炎症に悩まされるようになった。それでもまだトレーニングによって壁を乗り越えられると信じ、2年もの間、戦うことをやめなかった。無理だと認めたくなかったのかもしれない。しかし最後には、身体がはっきりとした信号を送ってきた。

「自分で決めるまでもなく、決断が下されたことに気付いたんだ」

 選手としての人生を終え、次のステージを歩み始めたが、次に打ち込むことを決めるには、もう少し時間が必要だという。果たして次の人生では“友”から離れ、自由に生きていくことができるのだろうか。それとも、別の形でそのつきあいは続いていくのだろうか。

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