REVERSE ANGLEBACK NUMBER
代表に足りない、わずかの「塩」。
大久保嘉人が待望される本当の理由。
text by
阿部珠樹Tamaki Abe
photograph byJ.LEAGUE PHOTOS
posted2014/05/09 16:30
5月3日の試合ではノーゴールに終わったが、今季の大久保は第12節終了時点(川崎は11試合消化)で6ゴール。トップと2点差、リーグ4位タイの成績を残している。
ワールドカップの代表メンバー発表が近づく中で、大久保嘉人の代表入りを望む声が大きくなっている。一番の理由は当たり前だが点を取っているからだろう。去年、川崎フロンターレに移籍すると、26点取って得点王になった。好調は今季に入ってもつづいていて、すでに6点取ってランキングの上位につけている。それだけではなく、決勝トーナメント進出をかけて激しい試合を戦ったACLでも、体調不良で出場を危ぶまれるなか、試合に登場して貴重な得点を記録した。やっぱりFWは点を取るのが一番。「得点はならなかったが守備では貢献した」なんて評されるFWほどつまらないものはない。
しかし、大久保の待望論は単に最近好調で、たくさん点を取っているからだけではないように思う。大久保にはこれまでのザッケローニ監督の代表にはない独特のテイストがあるのを多くの人が感じているからではないか。
大久保は2010年大会にも出場している。チーム戦術から、本来の最前列ではなく、少し下がった左でのプレーを求められ、よく奮闘したともいえるが、もっとシュートが見たかった。ガツガツ点を取りに行く彼らしさが見たかったという不満も残った。それこそ「得点はなかったが守備では(珍しく)がんばった」といった大会ではなかったか。
代表の物足りなさを補う、大久保の「イメージ」。
「大久保じゃなくて香川だろ」
2010年のメンバー決定の直後、憤慨していたサッカー好きの友人がいたが、本大会や香川のその後を見せられ、なるほどと納得させられた。
国際試合の経験は少なくない大久保だが、攻撃的な選手の割には得点も多いとはいえず、印象に残る活躍も思い浮かばない。アテネのオリンピックぐらいか。
それでもここにきて待望論が高まっているのは、「和を乱しそう」とか「自分が点を取ることしか考えない」といった表面的な彼のイメージが、まさに今の代表の物足りなさを補うのではと期待されているからだろう。