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<異色のパ・リーグ最強投手> 金子千尋 「飄々と歩む理想への道」 

text by

米虫紀子

米虫紀子Noriko Yonemushi

PROFILE

photograph byHideki Sugiyama

posted2014/04/21 11:50

しなやかな身体から繰り出される150km超の速球と
七色の変化球を武器に、昨季は15勝8敗、防御率2.01。
今季のパで強打者たちが最も恐れる辣腕エースの
ひと味変わった素顔に迫り、追い求めるものを訊いた。

「あんまり注目してほしくないですね」

 金子千尋は、真顔で言う。

 昨年、金子の前を走っていたのは、田中将大ただ一人だった。その田中がヤンキースへ移籍し、金子には今年“パ・リーグのエース”という肩書きがつこうとしているのだが、そこでこの一言である。

 150kmに届く直球と、ナックルボール以外のあらゆる変化球を自在に操り、打者を手玉に取る。昨年は15勝8敗、防御率2.01など自己最高と言える成績をおさめた。奪三振数と投球回、完投数では田中を抑えて両リーグトップで、沢村賞の受賞基準7項目をすべて満たしたのは金子だけだった。

 しかし、24勝無敗で楽天を初のリーグ優勝、日本一に導いた田中のインパクトは強すぎた。金子の存在は田中の陰に隠れ、沢村賞も田中が受賞した。

 はたから見れば不運だ。しかし、「マー君がいなかったら……と考えませんでしたか」という不躾な質問に、金子はこう答えた。

「いい成績は残したいけど、変に注目されたくない」

「いなかったら、もしかしたら去年の成績は残せてないかもしれません。僕は正直、目立ちたくないんです。いい成績は残したいけど、変に注目されたくない。去年はもっとすごいピッチャーがいたから、僕は目立たなくてすんだんです。もし僕がああいう立場になったら『ほっといてくれ』となりますね」

 剛と柔。田中と金子のイメージは対照的だ。

 気迫をむきだしにして打者に向かっていく田中に対し、金子はいつも表情を変えることなく、飄々と打者に向き合う。マウンドで吠えたり、ガッツポーズをすることはまずない。

 しかし昨年、オリックスの捕手、伊藤光が興味深い話をしていた。オールスターに初出場し、田中の球を受けた印象を聞いた時、こう答えたのだ。

「金子さんを受けているような感覚でした。打者の反応をよく見て投げたり、ピンチでギアが上がるところ。全部の球種のキレやコントロールのレベルが高いこと。それにストレートもただ速いだけでなく、ベース板の上ですごくボールが強い。だから簡単には弾き返されない。そういうところも一緒ですね」

<次ページへ続く>

【次ページ】 金子は“10持っている力を10出せる能力”がある。

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