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巨匠・ピルロの“呪われたFK”。
積み上げた42本は至高の切れ味。 

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弓削高志

弓削高志Takashi Yuge

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posted2014/04/02 10:30

巨匠・ピルロの“呪われたFK”。積み上げた42本は至高の切れ味。<Number Web> photograph by AFLO

第28節ジェノア戦、土壇場でフリーキックを決めるピルロ。

 ユベントスMFアンドレア・ピルロのフリーキックには、“マレデッタ(呪われたFK)”という異名がついている。

 今季もすでに5人のGKが、ピルロの右足の餌食になった。圧巻だったのは、3月の2戦連続ゴールだ。

 リーグ首位を独走するユーベとはいえ、3月16日の28節ジェノア戦は、3連覇へのプレッシャーにDFの大量離脱が重なった、難しいコンディションのゲームだった。

 敵地でシュートすら満足に打たせてもらえず、試合は0-0のまま終了目前。誰もがユーベの足踏みを予見した89分、ピルロのFKは鋭く弧を描いてゴール左上隅に突き刺さった。

 タイムアップと同時に、ユーベ・ベンチは全員総立ちで沸き立った。ピルロの一撃は、疲労に喘いでいたチームに再び勇気と活力を与え、スクデット3連覇を大きく手繰り寄せた。

「脱帽」とか「巨匠の技」という言葉はもはや陳腐に。

 それだけでは終わらない。ピルロの魔術は、4日後の苦境でもチームを救った。

 優勝を目指すEL(ヨーロッパリーグ)のベスト16ラウンドは、因縁浅からぬフィオレンティーナとのイタリア対決だった。

 トリノでの1stレグでは1点のリードを守りきれず、試合終盤にアウェーゴールを奪われた。今季セリエAでの対戦成績は1勝1敗の五分だが、守備陣は4失点で大逆転負けを喫した昨秋のトラウマを抱えたままだった。

 3月20日の2ndレグは消耗戦となり、後半も0-0のままで時計は進む。大会敗退まで残り20分弱、ユーベは追い込まれていた。

 71分、FWジョレンテが得たゴール正面18mの位置に、ピルロがボールをセットする。ピルロは5枚の壁とGKネトに目をやり、右足を振りぬいた。ボールは時速106kmの矢になると、壁の一番右にいたMFボルハ・バレロのさらに右を抜けて、ゴール右上隅を打ち抜いた。

 紫色に染まったスタジアムは呆然とし、言葉を失った。ピルロは右腕を突き上げ、チームメートたちと荒々しく吠えた。ピルロの一撃が、ユーベを準々決勝に導いたのだ。

 シーズンの分水嶺になり得る2連続FK弾。

 ピルロが極めた一芸の凄さを語るのに、もはや「脱帽」とか「巨匠の技」とかいった言葉は使い尽くされてしまった。『ガゼッタ・デッロ・スポルト』が喩えに用いるのは、今や一発必中を誇る西部劇のガンマンか、天才レオナルド・ダ・ヴィンチの筆づかいしかないのだ。

【次ページ】 かつては「エレベーター」、そして「呪われたFK」。

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アンドレア・ピルロ
ユベントス

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