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<私が今日も走る理由> 被災地で“闘う”元プロボクサーの医師 ~川島実さん~ 

text by

近藤篤

近藤篤Atsushi Kondo

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photograph byAtsushi Kondo

posted2014/03/11 10:10

<私が今日も走る理由> 被災地で“闘う”元プロボクサーの医師 ~川島実さん~<Number Web> photograph by Atsushi Kondo
ウェアに着替え、お気に入りのシューズを履いて、
今日も当たり前のように駆け出す――でも、なぜ?
何がわたしたちを「走る」というシンプルな行動へと
駆り立てるのだろう? 走ることで何を得ているのだろう?

好評発売中のNumber Do Winter『私が今日も走る理由』より、

元プロボクサーで今は気仙沼市の病院で働く
異色の医師・川島実さんのインタビューを一部公開します。

 昔から長い距離を走るのは得意でした。小学校4年生のときです。学校の授業で走るんですけど、担任の先生が、東海道五十三次の地図みたいなのを作ってくれたんです。こんだけ走ったら箱根まで行ける、みたいなの。それにはまって、1周200mのトラックを毎日40周走ってました。その頃の自分にとって、走るのが楽しかったかどうかはわからないけど、楽しくなっちゃったことは間違いないですね。

 12月下旬、宮城県気仙沼市本吉町。

 海からの風は強く、とても冷たい。太平洋のはるか沖合からやってきた波は、岸に近づくにつれ、まるで何かに驚いたかのように大きく盛り上がり、白い飛沫を風の中にまき散らしながら、激しく浜辺の岩を打つ。

 そんな三陸の冬景色の中を、一人の男が走っている。紺色のヨットパーカー、黒いランニングタイツ、右手にはアイフォーンを握り、両足にはビブラムのベアフットシューズを履いている。

 彼の名は、川島実という。39歳で、気仙沼市立本吉病院の院長だ。しかし、走っているときの彼は、どうみても医師には見えない。フードで頭部を覆い、茶色いレンズのサングラスをかけ、顎の線は逞しく、肩幅は広い。肉の落ちた頬、強い視線は強い意思を感じさせる。強いて言うなら、走っているときの彼は医師よりもボクサーに見える。あるいは、ロック歌手のようにも。

「若い研修医が来てるときは強制参加」のランニング。

 毎朝6時、川島は病院からその日のランをスタートする。一人のときは7.5kmのコースを30分から35分で走る。

「若い研修医が来てるときは強制参加させてるんですよ。部活、とか言って。研修医の走力に合わせて5kmに縮めたり10kmに伸ばしたりします。朝の回診が7時半に始まるので、それまでにシャワーを浴びて仕事着に着替えてね」

 ランニングコースは、海のコースと山のコースにわかれる。海のコースでは細い河岸堤の上の道を先端まで走ることもある。視界の左奥には、3年前の津波で流されたままのビルが、まるで神様が回収し忘れた何かのように、荒れ狂う白い波の中で退屈そうに突っ立っている。

【次ページ】 走っていると自分の中に“ご褒美物質”が出てくる。

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