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田中将大を笑顔で送り出すために。
日本の“奇跡のサイクル”を再建せよ。 

text by

氏原英明

氏原英明Hideaki Ujihara

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photograph byHideki Sugiyama

posted2013/11/09 08:01

田中将大を笑顔で送り出すために。日本の“奇跡のサイクル”を再建せよ。<Number Web> photograph by Hideki Sugiyama

日本シリーズ第7戦、自ら志願して9回のマウンドに立った田中将大。見守るファンも、これが日本で田中を見られる最後だと感じていたのではないだろうか。

才能を生み続ける日本野球の“奇跡のシステム”。

 今年のドラフトでも、オリックス1位指名の吉田一将(JR東日本)は、青森山田高時代は3番手投手だったが、大学・社会人を経て、1位指名を受けるほどに成長した。「高校時代の悔いがずっと残っていたから、続けてこられた。あそこで挫折せずにやってきたから、今の自分がある」と吉田は話している。

 日本の野球界には、たとえ日本のトップ・プレイヤーがMLBに挑戦しようとも、次から次へと選手が生まれる“奇跡のシステム”ができあがっているのである。

 しかし、それがこれからも続いていくという保証はどこにもない、ということも忘れてはいけない。

 というのもこのシステムには、何の普遍性も、組織としてのマネジメントも存在しないからである。高校生や大学生が育つのは、彼らを指揮している指導者個々の裁量でしかなく、野球界全体として一貫した指導の在り方や、野球のすそ野を広げるための施策を講じてきたわけではない。

 多くの若きスターを世界に送り出しているサッカー界と比較すると、その差は明らかだ。

全体として、育成と地域密着を進めてきたサッカー界。

 Jリーグのクラブには、地域の代表となり、地域に根付くための「グラスルーツ」という考えが義務付けられている。

 サッカースクールを地域に開校し、サッカーの風土を育てる。ユース、Jユースなどアカデミー部門をチーム内に作り、地域から集まった選手たちを育成し世界のサッカー界に人材を輩出していく。

 サッカー界に若手が次々と生まれる背景には、しっかりとした育成の土壌があるのだ。高校の部活動出身者に並ぶほどにクラブユース出身からも逸材が生まれているのは、Jリーグが誕生して20年になるサッカー界が生み出した成果であるのだ。

 もっともプロ野球の球団内にも、楽天など数チームがベースボール・スクールやアカデミーを開講しているケースはある。だが、それらは球団個々の努力に留まっており、野球界全体としての動きではない。

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田中将大
東北楽天ゴールデンイーグルス

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