過去には、何度もファンの期待を裏切ってきた。

　勝利の立役者は、満員のスタンドからの拍手喝采を浴びながらトンネルへと向かい、タッチラインを超える前に立ち止まると、くるりと後ろを向いて観衆の声援に応えてから、控え室へと姿を消した。これまで、トンネルの背後にある記者席から、背番号9が大きく見える機会は滅多になかった。

　特にリーグ戦では、ほとんど記憶にない。2年前の移籍以来、復活が待たれ続ける「5000万ポンドのストライカー」は、途中交代を免れた試合でも、精彩を欠いた90分間の末に、俯きながら真っ先にピッチを去ることが多かった。公式戦合計22得点の昨季も、プレミアでは僅か8得点に終わっていた。

　過去にも復活の兆しはあったが、その度に期待は裏切られた。原因の1つには、たとえ当人が「自信を失ったことはない」と強調していても、チェルシーでの自分を信じ切れない精神状態があったはずだ。昨季までのトーレスは、試練が訪れる度に、上向きかけていた調子を落とした。

　最たる例は、一昨季の第5節マンチェスター・ユナイテッド戦(1－3)以降の低調だろう。トーレスはマンUに一矢を報いる1点を決めたが、それよりもむしろ、がら空きのゴールを前にシュートを外し、追い上げのチャンスを逃した「世紀のミス」が騒がれる中で試合を終えた。すると次節では、ディディエ・ドログバとの1トップ争いにおける焦りもあったのか先制点を決めながら、やる気が空回りして一発退場。リーグ戦で再びスコアシートに名を連ねたのは第31節のことだった。

今季も訪れた苦境。しかし昨年までとは違った。

　その点、今季は、リーグカップでのスウィンドン戦(2－0)で、1ゴール1アシストを記録した9月後半以来、訪れる逆境にも耐えて調子を維持している。

　まずは、中3日で臨んだリーグでのトッテナム戦(1－1)。相手CBヤン・べルトンゲンとの個人バトルの中で、軽い気持ちで顔に手をかけた行為が2枚目のイエローを招いて退場となった。

　続く3日後の10月1日、CLでのステアウア戦(4－0)では、前半11分に負傷退場の憂き目に遭った。その後は代表ウィークによるリーグ中断が待ち受けていたのだが、トーレスは22日のCL第3節でスタメンに復帰すると、シャルケ戦(3－0)で2ゴール。更なる好調をアピールしてマンC戦を迎えていた。

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