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セイバーメトリクスでは限界がある!?
メジャー球界の越えがたい年俸格差。 

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菊地慶剛

菊地慶剛Yoshitaka Kikuchi

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photograph byGetty Images

posted2013/10/27 08:01

セイバーメトリクスでは限界がある!?メジャー球界の越えがたい年俸格差。<Number Web> photograph by Getty Images

カージナルスの右腕エース、アダム・ウェインライト。カージナルスでメジャー昇格してから、チームを牽引してきた。今シーズン、34試合に登板し、19勝9敗、防御率2.94と好成績を残している。

成績が物語る、年俸総額と強さの相関関係。

 だが、どれだけセイバーメトリクスが人々に認知され、低予算チームが頑張ろうとも、未だに変わろうとしないのが各チーム間の年俸格差だ。むしろ年俸総額の上位チームと下位チームの差は広がっている傾向にある。

 以下の表をご覧頂きたい。

●年俸総額下位15チームのプレーオフ進出数
プレーオフ
  チーム数
2004 出場枠
8チーム中
0
2005 2
2006 3
2007 3
2008 1
2009 2
2010 2
2011 3
2012 10チーム中 4
2013 5
     
リーグ優勝決定シリーズ
  チーム数
出場枠
4チーム中
0
0
1
3
1
0
0
1
0
0
     
ワールドシリーズ
  チーム数
2チーム中 0
0
0
1
1
0
0
0
0
0

 2004年から2013年までのプレーオフ進出チームの中で年俸総額下位15チームの占有数を表したものだ。

 この10年間で2004年以外、毎年のように下位チームがプレーオフに進出しているものの、ワールドシリーズまで駒を進められたのは2007年(ロッキーズ)と2008年(レイズ)の2回しかない。しかも、その2チームともにワールドシリーズで敗退している。

 これが何を意味するのか。セイバーメトリクス的に論じるのであれば、過去の統計を見る限り、如何にデータを駆使しようとも、低予算チームがワールドシリーズを制覇するのは不可能に近い、ということになる。

 もちろん低予算チームが地区優勝やプレーオフ進出を果たすことだけでも十分に評価されるべきだ。しかしどのチーム、どの選手にとっても究極の目標はワールドシリーズ制覇となる。それが果たせなければ本当に評価されることはできないだろう。

黄金期を築き上げているカージナルスの好循環。

 だからといって、ヤンキースのように極端に高額選手を揃えればいいというわけではない。

 今年のカージナルスがその典型だ。

 開幕時の年俸総額は10位と決して高いわけではない。しかもシーズンを戦いながら若手選手が台頭し、プレーオフでは出場登録選手25人中6人が新人選手という陣容である。それでも年俸総額2位のドジャースを破り、ワールドシリーズ進出を決めているのだ。

 そんなカージナルスのここ10年間の成績はずば抜けている。プレーオフ進出は7回を数え、ワールドシリーズ進出も4回。そして、今年を除いて2度も優勝している。まさに黄金期を築き上げているといっていい。

 その一方で、過去10年の年俸総額はメジャー30チーム中10位前後(9位、6位、11位、11位、11位、13位、12位、11位、9位、11位)を推移している。

 決して高額選手だけに頼っているわけではない。もちろん10年間、好成績を維持するには世代交代も必要だ。今年などはその過渡期であるにも関わらず、きちんと成績も残している。

 今のカージナルスは、チームのコアとなる経験豊富な実績あるベテラン選手たちに、ある程度の高額年俸を用意する一方で、若手有望選手を積極的に起用し、彼らを育成していく。

 そして若手選手たちが中心的存在になっていけば、今度はベテラン選手たちの移籍を推進しようとする。こうして年俸総額を一定に保ちながらも、好循環の中で世代交代を続けているのだ。

【次ページ】 データだけでは勝てない、低予算チームの限界点。

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