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<『キャプテン翼』作者が語る> 高橋陽一 「カール・ハインツ・シュナイダー誕生秘話」
text by
田邊雅之Masayuki Tanabe
photograph byYoichi Takahashi
posted2013/09/18 06:01
大空翼が欧州で出会う最大の好敵手が西ドイツの“若き皇帝”だ。
大人気漫画の作者がストーリーを構想した当時を振り返り、
名キャラクターが生まれた背景を明かした。
ブンデスリーガを特集したNumber835号より、高橋陽一先生が
ドイツサッカーの魅力を語りつくした特集を全文掲載します!
キャプテン翼を描き始めるきっかけとなったのは、1978年のW杯、アルゼンチン大会をテレビで観戦したことでした。
ちなみにこの大会では、ジーコやプラティニなどが脚光を浴びています。だからこそ私も翼を10番の選手にしたわけですが、一方では西ドイツ代表のFW、バイエルンに所属していたカール・ハインツ・ルンメニゲにも強烈なインパクトを受けました。そこでジュニアユース時代の翼の物語にも、カール・ハインツ・シュナイダーというドイツ人の若手を登場させることにしたんです。シュナイダーは翼にとって、国際舞台で初めて出会った本格的なライバルになりました。
ではストーリー展開上、なぜ最初の好敵手がドイツ人でなければならなかったのか。
理由としては、サッカー選手としての翼の立ち位置と、'70年代から'80年代にかけてのブンデスリーガの存在感が挙げられます。
ブラジルに影響を受けた翼の宿敵に相応しかった西ドイツ。
ご存知の通り、翼はブラジルサッカーに影響を受けて育った選手ですが、あの頃の日本では、個人技重視の南米サッカーvs.組織的なヨーロッパサッカーという捉え方が一般的だった。であれば翼の前に立ちはだかる相手も、当然ヨーロッパの選手がふさわしいだろうと。そのヨーロッパ勢の中でも特に組織的なプレーを実践し、かつ圧倒的な強さを誇っていたのがブンデスリーガであり、ひいては西ドイツ代表だったんです。
事実、シュナイダーには、私がブンデスリーガやドイツサッカーに抱いていたイメージが色濃く反映されています。カール・ハインツと命名した時点で、重要な役回りを演じることになるだろうという予感はありましたが、彼は見事に期待に応えてくれました(笑)。
たとえば選手としての特徴。シュナイダーはファイヤーショットと呼ばれる強烈なシュートを打てるだけでなく、不屈の精神力、いわゆる「ゲルマン魂」も持ち併せている。ドイツサッカー、とりわけ代表チームは、最後まで絶対に試合を諦めない粘り強さで有名でしたからね。'82年のW杯準決勝、プラティニを擁するフランス代表相手に延長で2点差を追いつき、最終的にPK戦で勝利をもぎとった試合は、今でも鮮明に覚えています。
人物像もしかりです。シュナイダーの父親は往年の名選手という設定にしました。ヨーロッパのサッカー界では、親子二代で選手になるケースは少なくないためです。