野球クロスロードBACK NUMBER
首位・楽天相手に2試合連続サヨナラ。
打ち勝つ野球で、西武はまだ死なず!
text by
田口元義Genki Taguchi
photograph byNIKKAN SPORTS
posted2013/08/20 12:35
8月18日の楽天戦でサヨナラタイムリーを放った栗山巧(右から2人目)。プロ入り12年目で今年30歳になるが、握力は80kgを誇るという。
西武の「チャンステーマ4」と呼ばれる壮大な応援が、西武ドーム全体を激しく揺らす。
オーオオーオオー、オオオオオオオー……。地鳴りのように響き渡るイントロ。男性と女性、各パートが絶妙にシンクロし、チームの攻撃リズムを強烈に後押しする。
8月18日の楽天戦。そのチャンステーマ4が鳴り止まぬうちに勝敗が決するなど誰が予想したことだろうか……。
まさに、筋書きが読めない試合だった。
楽天に2点先制されて迎えた2回裏、ヘルマンのグランドスラムなどで一挙6点を奪い逆転に成功し、その後も西武が主導権を握っていた。ところが、8対5と3点リードで迎えた7回、松井稼頭央に痛恨の同点3ランを許し形勢を逆転されると、8回にはマギーに勝ち越し3ランを浴び8対11。試合の大勢は、決しようとしていた。
しかし、まだこの試合は終幕を迎えていなかった。
「ランナーがひとり出れば可能性がある。みんな諦めていませんでした」
主将の栗山巧は眼光鋭くそう言ってのける。
9回裏は、まさに彼の言霊が具現化していた。
壮絶な打撃戦を制した渡辺監督は「まだ、死んでない」。
6番・大崎雄太朗からの3連打で満塁とすると、9番の鬼崎裕司が押し出しの四球を選び、ヘルマンのタイムリーで1点差。そして、2死二、三塁の一打サヨナラの場面から栗山がライト前に鋭い打球を放ち、西武が劇的すぎるフィナーレを飾った。
それまで5打数無安打と精彩を欠きながら最終的に殊勲打を放った栗山は、昂揚感を覚えながらも冷静に激闘を振り返る。
「負けていたし、気楽といったら変ですけど『いいところで回ってきたらええな』と。開き直って打席に立てたのが良かったと思います。(楽天との試合では)打ち合いになることは覚悟していました。勝つとしたら打ち勝つしかないと思っていたんで、最後の最後で打てて良かったです」
12対11。両軍合わせた安打数は32。壮絶な乱打戦を制した打線に渡辺久信監督は「いやぁ、すごいね」と脱帽し、チームの諦めない姿勢を讃えた。
「9回は下位から始まる苦しい場面だったけど、コツコツ繋いでくれた選手たちは素晴らしい。けど、やっぱり最終的に決めてくれたキャプテン、クリが素晴らしかった。諦めないことが今のうちには必要だからね。今日のゲームは本当に執念を感じた」
これが、2日前、自力優勝の可能性が消滅したチームなのか? 誰もが西武の現在地を疑うほどの粘り強さだった。
指揮官は気を引き締め、語調を強めてはっきりと言った。
「我々はまだ、死んでない」