野ボール横丁BACK NUMBER
山本昌が憧れた先輩、甲子園初勝利。
前橋育英・荒井監督の31年越しの夢。
text by
中村計Kei Nakamura
photograph byKyodo News
posted2013/08/12 18:30
岩国商に勝った後、抽選結果を主将である次男・荒井海斗選手より受け取る荒井監督
真後ろから質問が飛ぶと首を180度回転させた。斜め後ろから話しかけられると一歩下がって横に並んだ。
試合前の囲み取材のときの風景である。
必ず相手の目を見て話そうとする姿勢に、前橋育英(群馬)の監督、荒井直樹の人間性がよく表れていた。ちなみに声は歌手の玉置浩二似だ。低音だが滑舌がよく澄んでいる。
律儀な性格が勝負弱さにつながっているのだと言われたこともあった。
「私学の監督っぽくない、ってよく言われますね。勝ちたくないのか、って。でも勝ったらそれも信念だって言われますから。僕は技術のことでは選手を絶対に怒らないって決めてるんです」
夏の甲子園は雰囲気が違う。夏に勝てて嬉しい。
荒井は日大藤沢高校(神奈川)を卒業した後、社会人のいすゞ自動車で13年間プレーした。母校の監督を経て、'99年に前橋育英のコーチとなり、'02年から監督を務める。
監督就任9年目、'11年春に初めて甲子園へ出場する。が、大会が東日本大震災直後ということもあり、ブラスバンドによる応援は中止になった。しかも1回戦で九州の強豪、九州国際大付(福岡)と対戦し、大会記録となる1イニング3本塁打を含む4ホームランを浴びるなど1-7で惨敗。試合時間も1時間41分と短く「あっという間でほとんど覚えてない」と話す。
そんな荒井が率いる前橋育英は12日の第1試合で、岩国商業(山口)を1-0で破り甲子園初勝利を飾った。
「春に出たとき、やっぱり夏に出なきゃ、って言われましたからね。夏の甲子園はスタンドの雰囲気がぜんぜん違う。夏に勝てて本当に嬉しい」
夏の地方大会はこれまで準決勝が壁だった。この夏、3度目の挑戦で初めて決勝進出。その勢いで甲子園行きの切符をつかんだ。