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<本を読めば速く走れる?> 為末大 侍ハードラーの競技力向上本読み術。 

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生島淳

生島淳Jun Ikushima

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photograph byTamon Matsuzono

posted2010/09/13 06:00

<本を読めば速く走れる?> 為末大 侍ハードラーの競技力向上本読み術。<Number Web> photograph by Tamon Matsuzono
走りについて常に追求を続けるトップアスリートは、読書に対するこだわりも超一流だ。政治経済にも関心を持ち、株式投資の自著もある彼が、日本に滞在の束の間、読書と競技の関係について語った。

 本を読んだら、速く走れるようになるか?

 この質問が本稿のテーマである。

 こんな疑問を持つようになったのは、村上春樹が『走ることについて語るときに僕の語ること』のなかで、こんなことを書いているからだ。

「僕自身について語るなら、僕は小説を書くことについての多くを、道路を毎朝走ることから学んできた。自然に、フィジカルに、そして実務的に。」

 継続的に走ることが、書く力を育てる――。

「じゃあ、今日のテーマは読書の力が競技力に直結するかってことですね」

 陸上界きっての読書家、為末大。さすがに話が早い。質問の意図をさっと理解してくれた。

「端的に言えば『ある』と思います。陸上を続けていると、自分が走ったときの身体の感覚を言葉で追いかける部分があるんです。僕は感覚的な言葉を使うことが多くて、『フェザータッチ』とか、『地面を踏むんじゃなく、叩く感じ』と表現したりする。陸上では地面に接地している0.1秒の間を表現する言葉がものすごく多いんですよ。『紙の上の水を走る』とか、『熱い鉄板の上を走るつもりで』とか僕も使いますから。当然、感じたことを正確に表現するには語彙が豊富な方が説明しやすいですし、そのためには幅広い読書が役に立つんですよ」

為末が本格的な読書生活をスタートさせたきっかけ。

 彼の生活のなかで、読書は大きな割合を占めている。「合宿中は黄金の読書時間」というほどで、走って、食べて、読むという生活はとても贅沢に思える。現在はアメリカのサンディエゴに拠点を置き、日本の本だけでなく、洋書にも食指を動かしている。

「長い本を読むには、iPadよりもキンドルの方が読みやすいですね。ゆくゆくは英語の本はキンドルにガサっと入れて遠征に行く時代が来るかもしれません」

 広島で育った為末の実家には、もともと本があふれていた。父は坂本龍馬、母は宮沢賢治が好きだった。祖父は書庫を持っており、家の中には福沢諭吉の「世の中で一番楽しく立派なことは一生涯を貫く仕事を持つことである」という言葉が貼られていたというほどだから、活字を通して簡単に過去とつながることができた。しかし本格的な読書生活がスタートしたのは、23、24歳のあたりだったという。

「もちろん読書は好きでしたが、本当の読書生活のスタートは大学を卒業してからです。誰かに『スポーツ選手だから分からないよね』みたいなことを言われて、ムッとして(笑)。それからいろいろな本を読むようになったんですが、ちょうど世界で走る機会が増え、必然的に日本人であることを意識することが多くなった時期と重なっていますね」

「侍ハードラー」というニックネームがついたのも、日本人である自分が世界とどう戦っていくか――そのテーマに敏感だったからかもしれない。

【次ページ】 トレーニングの発想にも見られる東洋と西洋の違い。

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