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<特別インタビュー> 小林可夢偉 「ただ一つの道を見据えて」 ~F1シーズン後半戦へ向けて~ 

text by

今宮雅子

今宮雅子Masako Imamiya

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photograph byHiroshi Kai

posted2010/08/27 06:00

<特別インタビュー> 小林可夢偉 「ただ一つの道を見据えて」 ~F1シーズン後半戦へ向けて~<Number Web> photograph by Hiroshi Kai

「少し待ってください。僕、F1はまだ1年目なんですから」

 小林可夢偉のレースは、砂に水を撒いたごとく一瞬にしてすべてを吸収していく若者の爽快感に溢れている。マシン性能によって成績の大半が左右されてしまうF1において、ポイント圏内=10位以内を走るのはトップ5チームのドライバーに与えられた特権であり、義務でもある。そんな“物理の法則”の下、小林は第7戦トルコGP以降、6戦中4戦でポイントを獲得し、第10戦イギリスGPでは昨年のアブダビGP以来の6位入賞を果たした。'09年トヨタよりはるかに操縦が難しいザウバーで同じ成績まで到達したのは、わずか9カ月の間に彼が大きく成長した証である。コースサイドで見ていると、新チームを除いてもっとも難しい挙動を示すマシンだと伝えると「知ってますよ!」と彼は笑う。

「パタパタ跳ねるからね」と、時速300kmを超える世界を日常のことのように話す。しっかりと、地に足がついているのだ。

「今の自分がやってることから、勝てるようになるまでが1(ワン)レースです。その戦略が大事なんです」と、小林は表現する。

「勝たないと、レースは駄目です。今はそこに行くまでの道のりなんです」と言った後「少し待ってください」と加える口調は、さらっとしているだけに約束に似た響きを持つ。

「僕、F1はまだ1年目なんですから」――。

「シューマッハーの実力が衰えてきたとは僕は思わない」

「どのチームに行きたいかって言ったら、もちろんレッドブルです。こだわりとかじゃないんですよ。もう、上から順番(笑)。レッドブルに乗ったら、絶対に勝てます」

 自信の背景には、F1デビュー以来、面白いほどにコース上でチャンピオン経験者に競り勝ってきた事実がある。'09年アブダビGPではタイトルを獲得したばかりのジェンソン・バトンをかわし、今シーズン9戦目のバレンシアではアロンソを抜き去り、第10戦のイギリスGP以降は運命のようにミハエル・シューマッハーとポジションを競うたび勝ってきた。対決していないチャンピオンは、ルイス・ハミルトンひとりだけなのだ。

「シューマッハーの実力が衰えてきたとは僕は思わないです。それよりも、彼が勝ってた時代には対抗できるのがアロンソひとりだけだった。でも、今では(セバスチャン・)ベッテルもハミルトンもいるし、バトンも速くなってきたし。ドライバー全体のレベルが上がってきてることは間違いないです。あとはハミルトンだけ? 彼を抜くのはちょっと難しいかもしれない(笑)。マクラーレンのストレート速度は、びっくりするくらい速いですから。バトンはときどき失敗して近くに来てくれるけど、ハミルトンはいつももうちょっと前のほうを走ってるから。

 僕ら、今のチームで表彰台なんて考えてないです。何かが起こったとしても、そういう位置にいないと表彰台には届かないから。レッドブル、フェラーリ、マクラーレンのすぐ後ろにつけてないと無理。つまりルノーを抜いてないと“何かを待つ”こともできないからね。それはかなり大変です」

【次ページ】 可夢偉が語るスタート直後の混戦での走り方。

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