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シアトルの流行はMLBよりもMLS!
米国のサッカー人気がついに定着か?
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph byGetty Images
posted2010/07/13 10:30
なんとなく……欧州のチームやJリーグの応援風景にも似てきたMLSのサポーターたち。シアトルの街の別名“エメラルド・シティ”の名を冠してファウンダースFCを応援している
「サポーターありき」のチーム運営の姿勢をアピール。
● ジェネラル・マネージャーは4年ごとの選挙で選出
これはバルセロナの方式にならったものであろう。ファンが直接、球団関係者と話し合いを持つ場を設定した。昨今、アメリカでは野球、フットボールなどでデータを駆使し、自分なりに分析した結果をブログ上で公表、球団経営に「もの申す」ファンが増えてきている。サポーターにも経営に参画させる仕組みを作る――これが時流にもマッチしたと思われる。
● シーズンチケットホルダーは、周りに座るサポーターのタイプを選べる
データによると、サウンダースの熱烈なサポーターは20代から40代の男性。この層が観客動員の3分の2を占めている。この年齢層のサポーターは、サウンダースのカラーを身にまとって応援に来るサポーターもいるが、一方で家族と一緒にゆっくり見たい人たちもいる。サウンダースが画期的なのは、シーズンチケットを買えば、周囲に座るファンを選べるという点だ。
熱狂的なサポーターもよし、家族連れが多く集まる場所で気兼ねなく見るもよし。
アメリカでは住む場所によって、所得層などがはっきりと分かれる傾向にあるが(クリント・イーストウッドが監督・主演した映画『グラン・トリノ』はコミュニティの変遷を描いていた)、そうした傾向がスタジアムにも持ち込まれたのである。これは発想として、ひとつの「安心」を提供することにつながっている。
徹底した地域密着、地元志向がMLS成功のカギだった!
● 欠かせない地元有力企業のバックアップ
様々なサービスが成功の要因を作っているが、もうひとつ地元企業の関係者を巻き込んだのも大きかった。ビル・ゲイツとともにマイクロソフトを設立したポール・アレンの存在も大きい。
アレンはNFLのシアトル・シーホークス、NBAのポートランド・トレイルブレイザースのオーナーでもあるが、サウンダースの共同オーナーでもある。
これまでシアトルの企業関係者(マイクロソフト、ボーイングなど)は、プロスポーツの経営に積極的には関与してこなかった。スターバックスのオーナー、ハワード・シュルツはスーパーソニックスのオーナーだったが、チームを身売りしてしまい、それがオクラホマシティへの移転につながり悪評ぷんぷん。
アレンはシーホークスの安定的なオーナーであり、スポーツへの愛着もある。地元の有力者が後ろ盾になっているのもサウンダースとしては大きい。
ワールドカップでのアメリカ代表の活躍は、アメリカ国内でも話題となった。その流れをMLS全体で引き継ぎたいところだが、ワールドカップの代表メンバーのうちMLSでプレーしているのはわずか4人。
これまでアメリカのプロサッカーリーグはなかなか軌道に乗らなかったが、シアトルのように徹底した地元志向が成功の道しるべとなるかもしれない。