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“ワンダー・ボーイ”の栄光と有終。
M・オーウェン、爽快なる引退劇。 

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山中忍

山中忍Shinobu Yamanaka

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posted2013/03/29 10:30

“ワンダー・ボーイ”の栄光と有終。M・オーウェン、爽快なる引退劇。<Number Web> photograph by AFLO

昨年9月に1年契約を結んだストークでは10番をつけた。1月のスウォンジー戦で挙げたゴールで、史上8人目となるリーグ通算150得点を達成した。

引退の理由は絶えない怪我のせいではなく「予定通り」。

「切れた箇所は手術で元通り。でも、昔は切れたままだった。だから、僕のハムストリングは、右足が2本で、左足は3本という状態。このアンバランスを補うために、自然と負担や無理が生じて、左足や股関節なども痛めることになった」

 相次ぐ故障で満身創痍のようにも聞こえる発言だが、オーウェンは「日常生活で痛みを感じるとか、体をほぐすのに苦労するというベテランの話も聞くけど、自分は全く問題ない」とも言っている。ストークでの今季にしても、昨年9月の加入から7試合出場1得点で引退を表明することになったが、絶えない怪我に「止むを得ず」ではなく、あくまでも「予定通り」の潔い引退決意だ。

 オーウェンは、2シーズンほど前に、「トップレベルであと2、3年やりたい。その後は、 下部リーグにレベルを落としてまで現役に拘るつもりはない」と言っていた。

 出場数や得点数に依存する「出来高制」の契約を結んだストークは、第2のキャリアの下準備には好都合でもある。現場ではコーチが適任とする意見が強く、自身も、「サッカーに関わっていたい」と言うオーウェンだが、昨年には、「ガリー・ネビルの鋭い分析に刺激された。メディアでの仕事にも興味がある」とも口にしていた。基本給がチーム内最低レベルのストークでは拘束も最低限。パートタイムで解説を経験することが可能になった。

生来のユーモアを発揮するには解説者がうってつけ?

 解説者としてのオーウェンは、人気ハイライト番組『マッチ・オブ・ザ・デー』を放送するBBCで高い評価を得ているとされる。一部の視聴者に「つまらない」と言われることもある控え目な言動は、ゲスト解説者としての立場を弁えた行動と受け取れる。オーウェンは、20代の頃から、筆者のような一介の外国人記者に対しても、向こうから手を差し出して挨拶を交わし、こちらの目を見ながら真摯にインタビューに答えてくれる礼儀正しいプロだった。

 一方、素顔が垣間見れるツイッターでは、アーセナル・ファンの芸能人から「ベンチウォーマー」と呼ばれれば、「おデブちゃんこそエクササイズを」とやり返し、一般人による侮辱にも、欧州年間最優秀選手の証であるバロンドール('01年)や、プレミアリーグ得点王('98年、'99年)を意味するゴールデン・ブーツが飾られた、自宅の陳列棚の写真で反論するなど、ユーモアのセンスや強気な態度も示している。引退後にレギュラーとして解説を務めるようになれば、こうした「オーウェン色」を出し始めるのではないだろうか?

 また、厩舎まで経営するほどの馬好きとして、競馬中継の司会や解説も現実的だ。本人は「あくまでも趣味」と言うが、代表エースとBBC解説者としての大先輩、ガリー・リネカーは、趣味のゴルフでも同局の大会中継で解説を任される。

 リネカーが、「イングランドの偉大な点取り屋で好人物。サッカー界の誇りだ」と賛辞を送ったオーウェンの引退発表声明は、「遺憾ながら」ではなく「胸を張って」の一言で始まっていた。世間では「リバプールに残っていれば」、「怪我の少ない体だったら」といった無念の声が絶えない。しかし、ベテランFWは、キッパリと引退を決めた。

 ワンダー・ボーイとして、数々の爽快なゴールを決めたように。

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