プロ野球亭日乗BACK NUMBER
はたして相撲だけが「国技」なのか?
プロ野球も「不朽の国技」を目指す。
text by
鷲田康Yasushi Washida
photograph byNaoya Sanuki
posted2010/07/11 08:00
協約の目的を定めた第3条は、いわば「憲法の前文」。昨年の改定で理念的な記述が大幅に削除され、事実上消滅した
野球賭博問題で角界が揺れる中で、気になることがあった。
「国技」とはいったい、何だろうか。
相撲は日本の国技である。普通に言われてきたことだが、実は相撲=国技には、はっきりとした根拠はない。
賛否両論あったが「日の丸」と「君が代」は、日本の国旗と国歌として法制化されている。しかし、国技に関しては、特に法律で定められているわけではない。こういう類では、日本の国鳥が「きじ」だというのは、1947年に日本鳥学会が定めたものだという。しかし、その他には国花が「桜」というのもまた、何の根拠もなく国民に広く親しまれているという、いたって雰囲気の問題で語られてきたものなのだ。
自称であっても「国技」を名乗ることには多大な責任を伴う。
これは相撲=国技にも相通じる。
1909年に東京・両国に初めて常設の相撲施設ができた際に、当時の3代目尾車親方(大関・大戸平廣吉)が、これを「国技館」とすることを、板垣退助が委員長を務めた命名委員会に申請、了承されたことにはじまると言われている。だが、法律はもちろん、公的な団体が「相撲を国技とする」と定めたということはまったくないのだ。
いわば勝手に「国技」を名乗り、これが定着して、一般的に受け入れられている、というだけなわけだ。
だが、こうして自称「国技」を名乗ったことで、相撲界はより重い責任を背負うことになった。
今回の野球賭博問題でも、背後に組織暴力団がからんでいることは大きな問題だ。それにも増して、国を代表する「国技」という立ち位置からみれば、関係者にはより強い責任感が求められて当然だった。だとしたら、現役の大関や親方が“永久追放”ともいえる解雇処分に処せられることも、「正論」なのかもしれない。少なくとも世の中で、そう受け取られても仕方ないことだった。
プロ野球もふたたび「国技」を目指す!?
そんな折、野球界でも「国技」という言葉が、クローズアップされる出来事が報じられた。
「野球を不朽の国技にし、野球が社会の文化的公共財となるよう努める」
昨年の野球協約改正で、新協約から削除された第3条の一文だ。この一文を公益法人から一般社団法人へ移行する日本野球機構(NPB)の定款に復活させて盛り込んではどうか、と7月7日に行なわれたプロ野球のオーナー会議で提案があったというのだ。
これを読むと、どうやら相撲界に比べて、野球界はちょっと控え目なようだ。この一文では、まだ、自分たちは日本の本当の「国技」ではないと自覚しているのが伝わる。そこで、それを永続的な「国技」と認められるようにして、そのために社会的にも様々な役割を果たせるように努力しよう。平たく言えば、そういうことだった。