遂には、冷静に相手を追い詰めるテニスで世界ランク1位を撃破。
日本テニス界のホープはさらなる躍進を誓い、トップを目指す。
2011年の全豪とウィンブルドン、全米を制した王者ノバク・ジョコビッチ(セルビア)に堂々の逆転勝ち。10月末に開幕したスイス室内で、錦織圭は日本男子として初めて世界ランク1位を破る快挙を成し遂げた。'11年シーズンにトップ10選手から奪った3つ目の勝ち星である。翌週のランキングで錦織は24位に上昇し、日本男子の歴代最高位を大きく更新した。
錦織の'11年は堅実さを追い求める日々だった。シーズン開幕前、アンドレ・アガシらを指導したブラッド・ギルバートをコーチに招いた。『ウイニング・アグリー』(直訳すれば「醜く勝つ」)という著書を持つ新コーチは錦織に、格好よく勝とうとするなと説いた。無駄にリスクを冒さないこと、守備力を上げること、そうして全体的にミスを減らすことを求めたのだ。
'11年1月の全豪オープン。3回戦進出を決めた錦織は「100%ではないが、理想とするテニスができた」と満足そうな表情を見せた。ミスは1セット平均9本足らず。コーチが期待する堅実なテニスを早速、披露したのだ。だが、そのテニスは少しも錦織らしさのないものだった。彼の魅力である自由奔放さが影を潜めていた。1本で形勢を逆転するスーパーショットも数えるほど。確かにミスは少なかったが、おとなしすぎる優等生のプレーだった。
世界1位を目指す錦織に、名伯楽が授けた“堅実さ”という帝王学。

全豪は3回戦で世界ランキング9位のフェルナンド・ベルダスコ(スペイン)に完敗。
「今は守りを重点的にやっているが、攻めないと勝てないので、その判断力をつけたい」
こう語った錦織。落胆の色は隠せなかった。堅実なテニスと守備的に戦うことは必ずしもイコールではない。それを痛感したのだろう。今は守るべきか攻めるべきか、錦織はまだ、その基準を見定めることができずにいた。
選手には、幼い頃から磨き上げてきた自分の戦い方がある。ギルバートに指導を仰ぐ前の錦織は、打って勝ってきた選手だ。
「攻めて勝ちたかったし、そうしないと上にいけないと思っていました」
強烈なサーブこそないが、コースやテンポを変えながら、自在にショットを展開する力はジュニアの頃から群を抜いていた。創造性豊かなファンタジスタに、ギルバートは堅実さを求めた。世界1位を目指す錦織に、名伯楽が帝王学を授けたのだ。
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