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スタジアム命名権などで520億円!!
マンCが“聖地”を商品化した功罪。 

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山中忍

山中忍Shinobu Yamanaka

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posted2011/08/05 10:30

スタジアム命名権などで520億円!!マンCが“聖地”を商品化した功罪。<Number Web> photograph by AFLO

クリシーの他にも、アグエロなど今季も大きな買い物が続くマンチェスター・シティ。スタジアム命名権の代償として、果たして結果を出すことが出来るか

巨額の副収入をもたらす命名権販売は“諸刃の剣”?

 クラブ側の事情はファンにも理解できる。昨今のプレミアでは、控え選手でさえ数億円の年俸を手にしている。膨大な人件費を賄う収益を上げることは容易ではない。最も確実な収入源は入場料だが、そこには収容人数という限界が存在する。イングランドでは住宅街に建つスタジアムも多いため増改築に制約が多く、新スタジアム建設地を地元で探すことは更に困難を極める。グッズ販売からプレシーズン中の海外遠征まで、収益拡大に手を尽くす経営陣にすれば、命名権販売は、巨額の副収入への残された最後のルートだと言える。

 だが一方では、頭では理解できても、ハートが納得しないファンの心情がある。親子代々、地元クラブをサポートしてきた人々にとって、スタジアムは言わば「聖地」。歴史的な重みを持つその名称に、彼らは並々ならぬ思い入れと誇りを持っている。現在のプレミアでは、最新例のシティの他、アーセナル、ウィガン、ストーク、ボルトンが、命名権販売による収入を得ている。この5クラブのスタジアムは、いずれも'90年代後半以降に誕生した“新居”だったからこそ、ファンの抵抗が最小限だった。

ニューカッスルのオーナーの場合は、地元議会からまで非難の声が。

 2年前に、命名権の買い手を募る手段として、スタジアムを「Sportsdirect.com@St James' Park」と改名したニューカッスルのオーナーは、サポーターの間はもとより、地元議会においても非難を浴びた。新名称の前半部分はオーナーが経営するチェーン店名。後半部分に1892年以来の歴史を誇るホームの名称を残すことで、スポンサー企業とファンの双方にアピールしたかったのだろうが、完全な失敗に終わった。

 その直後には、チェルシーの経営責任者も「スタンフォード・ブリッジというスタジアム名を新名称の一部に残す」ことを条件に命名スポンサーを募ったが、やはり商談相手は見つからなかった。

 新スタジアム名、即ち自社名がファンの間で定着しなければ、宣伝効果を狙う企業にとって、年間に20億円近い命名権料を払う意味はない。「メールアドレスのような名称は侮辱行為も同然だ」として、ファンの反感を買ったニューカッスルの例は問題外。チェルシーにしても、「○○○○・スタンフォード・ブリッジ」という新名称ならば、ファンは略して「スタンフォード・ブリッジ」と呼び続けるだけだったに違いない。前半部分が商魂丸出しの企業名ならば尚更、省略されたはずだ。

【次ページ】 ファンに愛された「シアター・オブ・チップス」の最期。

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