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そしてストは回避された…… 

text by

長谷川晶一

長谷川晶一Shoichi Hasegawa

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photograph byShoichi Hasegawa

posted2004/09/16 00:00

そしてストは回避された……<Number Web> photograph by Shoichi Hasegawa

「どうなりましたか?」

「可能性はどうなの?」

 グラウンドでの練習を終えて、室内練習場に戻ってきたジャイアンツのファームの面々は口々に報道陣に尋ねる。

スト断行かそれとも回避か。そのタイムリミットはこの日の午後5時に設定されていた。

予定では午前中に練習を終えて、午後には翌日に控えた足利での対スワローズ戦に出発するはずだった。しかし、もしスト突入ということになれば、その移動も完全な徒労に終わる。そこで、急遽、練習時間を繰り下げて、状況の推移を見守ることにしていた。

 そんな状況の中、選手たちは曇天の空模様の下、汗を流していた。

 一軍のローテーションの一角を占める、久保裕也、林昌範が調整のために現れたこともあって、平日の生憎の空模様ではあったが、ジャイアンツ球場には二百人ほどのファンが詰め掛けていた。久保投手のファンであるという10代の女の子は言う。

「試合はなくなっても、練習はするんでしょ? だったら、別にストでもいいよ」

 選手のトレーディングカードに熱心にサインをもらっている男性は言う。

「試合が見られなくなるのは残念だけど、問題解決のためにはとことんやってみたらいいと思う」

 球場の警備担当者は言う。

「もし、一軍の選手がここで練習をすることになれば、かなり忙しくなるでしょうね。先日まで、清原選手が調整をしていたときもかなりのファンが来ましたから。それ以上の騒ぎになるのは間違いないですね」

 午後3時を過ぎ、選手たちは練習を終えた。それぞれ荷物をまとめ、迎えの車に乗り込み、合宿所へと戻る。午後4時を回り、球団スタッフや報道陣も帰り支度を始めている。タイムリミットまであとわずか。遠く大阪での協議・交渉委員会ではどんな議論がなされているのか? それぞれがそれぞれの思いを抱えたまま、選手、スタッフたちも姿を消した。カクテル光線が煌々と輝く無人の練習場はひっそりと静まり返っていた……

 もしストが決行されれば、選手たちは、一日につき年俸総額の1/300が減じられる。たとえば年俸900万円の選手ならば、一日のストで3万円の減給ということになる。

金銭的なダメージはもちろんある。しかし、ファームの選手にとって、一軍への出場のチャンスを奪われることはもっと辛いことだろう。

 ある選手は素っ気無く言った。

「ストになっても、練習を続けることには変わりないですから……」

 京王よみうりランド駅前の古びたラーメン屋。

 そのとき、そこでは『水戸黄門』の再放送が流れていた。そして、午後4時34分。ニュース速報が告げられた。

「スト回避」

 その瞬間、無言でラーメンをすすっていた男性は「オオッ」と小さな声を上げると、再び丼に向かい、ズルズルと音を立ててスープを飲み始めた。

 こうして、9月11日、足利市では実に29年ぶりのプロ野球の試合が行われ、「プロ野球」のある「当たり前の週末」が“とりあえず”は訪れた。

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