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From:バーレーン「暑さのなかで。」 

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杉山茂樹

杉山茂樹Shigeki Sugiyama

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photograph byShigeki Sugiyama

posted2008/09/16 00:00

From:バーレーン「暑さのなかで。」<Number Web> photograph by Shigeki Sugiyama

バーレーン戦は日本が3-2で逃げ切った。実力では日本が勝るのだろうが、

サッカーの“本場っぽさ”では、バーレーンのほうが進んでいるような……。

日本が毎回接戦を演じる理由を、うだるような暑さのなかで垣間見た気がする。

 暑い。とにかく暑い。バーレーンの話なのだけれど、これほどの暑さはちょっと記憶にない。投宿ホテルは屋外プール付き。いつもなら、ワーイとはしゃぎながらプールサイドに飛び出していくのだけれど、今回、そんな気持ちはとんと湧かない。

 気温推定四十数度、水温推定三十数度。それに推定70%以上と思われる湿度が輪をかける。外に出るのが怖いのだ。ホテルから200m離れたスーパーマーケットに行くのでさえ、決死の覚悟が必要になる。日中1時間以上外にいたら、熱中症に冒されること間違いなしだ。

 その一方で、館内は冷房がギンギンに効いている。冷房病になりそうなぐらい寒い。外との気温差はおそらく20度以上はあるだろう。たとえば、ホテルから一歩足を外に踏み出せば、眼鏡はたちまち真っ白だ。真冬にラーメン店に入った時に陥る現象と同じだといえば、眼鏡をかけている人ならお分かりいただけると思う。一歩外に出れば、そこはラーメン店……とは、恐ろしい世界である。

 さて、キックオフの時間は21時半。試合は気温36度、湿度69%の中で行なわれたが、もし僕が今回の岡田ジャパンの一員だったら、頭痛がするとか下痢気味だとか言って、先発出場だけは避けようと、必死に仮病を装っていたに違いない。冗談はともかく、サッカーをやる場所として、これほど相応しくない場所も珍しい。

 真夏に平気で行なわれるJリーグにもかねがね疑問を抱いているが、これはその比ではない。試合のレベルが下がるのは致し方ない。岡田ジャパンが、最後に集中力を切らし2失点したことを非難する気も、それほど湧いてこない。あまり何かを論じる気になれない舞台。そこで行なわれるW杯予選に対して、僕は憤りを覚えずにいられない。

 過酷なアウェー戦と言えば聞こえは良いが、これではW杯の権威は失墜する。そもそもなぜこの時期に、バーレーンで試合を行なうのか。FIFAやアジアサッカー連盟は、少し考えたほうが良い。アジアサッカー連盟には、昨年ベトナムでアジアカップを開いた前科もある。ボリビアのラパスで行なわれる国際試合も、空気が薄くて過酷すぎると、毎度、議論の対象になっているが、必然性はバーレーンのほうが低い。暑さは時期をずらせば、だいぶ緩和されるのだ。アジアのレベルがいっこうに上がらない理由と、これは大きな関係がある。適温で試合が行なわれる欧州のレベルが高い理由とも、大きな関係がある。

 ところで、バーレーンでは、欧州にいるような感覚に浸れる瞬間がある。日本より進歩的というか、充実していると思われるものが、バーレーンには確実に存在している。それは何かと言えば、「テレビ」である。その画面を通して、サッカー及びスポーツが紹介される確率はとても高い。理由はスポーツの専門チャンネルが存在するからだ。24時間、画面からは各種スポーツが流れっぱなし。世界各地で行なわれているW杯予選の模様も例外ではない。日本にいるよりこちらにいた方が、よっぽどスポーツ通になれそうな気がする。しかも、バーレーンと欧州との時差はわずか1時間。欧州の情報は、ほぼリアルタイムで飛び込んでくる。テレビを見ている限り、辺地にやってきた感じはまるでしない。

 そういえば、バーレーン対日本のハーフタイムで、記者席に備え付けのモニターに流れた映像からも、本場っぽさというか、非日本っぽさをうかがうことができた。画面に映っていたのは、スタジオで何人かの出席者が議論し合う光景だった。BBCなど欧州のテレビ局がサッカー中継でよく使う手法を取り入れているのだ。白装束を身にまとった人たちが自分たちの見解を侃々諤々と戦わせる姿は、ともすると滑稽に見えるし、エンターテインメント性は低いのだが、サッカーというスポーツの本質に迫る演出方法であることは確かであるし、また同時に、この試合を中継したテレ朝やNHKのBSでは拝めないスタイルでもある。ああだこうだ言い合うことがサッカー観戦の定番スタイルだとすれば、日本のサッカー中継は、それとは異なる、議論を嫌った嘘臭いテイストに包まれている。

 僕はそれがサッカーの中身にまで影響していると考えている。個々の能力で日本より2ランク落ちるバーレーンと、毎度、接戦を演じてしまう理由だと。サッカーを取り巻くムードに本場っぽさを感じるバーレーンと、感じない日本。テレビに限った話ではない。すべてがその調子だ。僕にはバーレーンのほうが進歩的に見えて仕方がない。日本の苦戦に必然あり。問題は岡ちゃん采配だけにあらず、なのだ。

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