濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER

81戦目・34歳の近藤有己が見出した、
“衰え”とともに闘い続ける境地。 

text by

橋本宗洋

橋本宗洋Norihiro Hashimoto

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photograph bySusumu Nagao

posted2010/02/14 08:00

81戦目・34歳の近藤有己が見出した、“衰え”とともに闘い続ける境地。<Number Web> photograph by Susumu Nagao

手堅い試合運びによって挑戦者・佐藤豪則を判定3-0で退けた近藤有己。暫定王座を防衛し、次回は正規王者の金井一朗と同門対決による王座統一戦を行なう

「熱いものがない」自分を認めた心地よさ。

 KOを逃し、判定勝ちにとどまったのだから“大爆発”とはいかなかった。立ち技のディフェンスには課題も見えた。それでも、若い挑戦者を退けたのだ。近藤はなんとか、崖っぷちから一歩踏み出した。

「いや、もう必死でしたね(笑)。今日はたまたま僕が勝っただけです。2ラウンドのような打ち合いが続いてたら(結果は)分からなかった」

 試合後の近藤は、過去に見たことがないほど饒舌だった。彼自身にとっても、それだけ重い意味のある勝利だったということだろう。

「やっぱり嬉しいですね。勝つと嬉しい。佐藤選手みたいな若い選手には追い抜かれると思ってたんで」

「ベルトよりも、ケガなく試合を迎えて、五体満足で勝って試合を終えられたのが嬉しいです。また次も試合ができるから」

 さらに彼は「心に熱いものを持っている若い人は脅威に感じますね。僕には、20代の頃の熱いものがもうないから」と苦笑してみせた。続けて「でも、そこに心地よさがあるんですよ」とも。

 自分はもう若くない。若くてギラギラした選手に、いつ食われてもおかしくはない。そして、いつか来る“その日”は今日かもしれない。そう覚悟しながら、彼はリングに上がっていたのだ。だからこそ、勝った嬉しさ、生き残ったことでまた試合ができる喜びを率直に吐露したのだろう。その姿には、泰然自若としすぎていた“不動心”とは別の、しかし不思議なことには変わりがない魅力があった。

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近藤有己

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