カンポをめぐる狂想曲BACK NUMBER

From:東京「風邪。」 

text by

杉山茂樹

杉山茂樹Shigeki Sugiyama

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photograph byShigeki Sugiyama

posted2007/11/26 00:00

From:東京「風邪。」<Number Web> photograph by Shigeki Sugiyama

東京に帰ってきたが、風邪が治らない。

それでもサッカーを観に行ってしまうのは変わらない。

試合に対する評価がいつもと違うのは風邪のせいか?

 マンチェスターで引いた風邪がいっこうに抜けない。ノド、鼻、頭痛、下痢、発熱……。風邪に伴う諸症状が、かれこれ2週間も身体の中を、グルグル駆けめぐっている。もちろん病院にも行きました。2年ぶりに。いや、3年ぶりかな。抗生物質も飲みました。でもダメ。病原体は、いっこうに去っていかない。というわけで、テンションは落ちまくり。本当に久しぶりに、憂鬱な気分を味わっている。病弱な人の気持ちが、少しばかり分かった気がする。

 とはいえである。ご存じの通り、僕はサッカー好きだ。試合観戦のためなら、老体に鞭を打つエネルギーは湧いてくる。日曜日には、甲府対大宮のJ2降格候補の直接対決を遠路、甲府まで観戦に出かけている。

 そして本日は、国立競技場へ。五輪出場を懸ける反町ジャパンの試合に足を運んだ。怖いもの見たさ半分に。

 問題山積。突っ込み所満載の試合ながら、風邪のせいだろうか。文句を言い出すエネルギーは湧いてこない。「良くやった! おめでとう反町ジャパン!」。

 ふと思う。普段から文句が人一倍多いのは、病弱ではない僕本来の姿と、大いに関係があるに違いない。世の中の一般的な人より、少し僕は元気が良すぎるのだ。この体調が続いて欲しいような、欲しくないような。少し微妙な気分だ。

 今夜は、体力をこれから明け方まで温存しておかなければならない。EUROの予選をテレビ観戦するつもりでいるからだ。しかしだ。これは今し方、テレビの番組表をチェックして判明したのだが、生中継があるのはたったの2試合だけ。しかも、最も面白そうなイングランド対クロアチアは、その中に含まれていない。うーん。スカパー!にもWOWOWにも、ちゃんと加入しているというのに、なんてこった。文句の一つでも言いたい気分だ。

 少しだけ、本来の僕に戻りつつあるというわけか。元気が少しだけ湧いてきた。ならばしょうがない。五輪出場を飾った反町ジャパンについて、一言だけいわせてもらうことにしよう。

 監督の反町氏が、一枚もカードを切らなかったメンバー交替についてだ。「先発の11人は良くやっていた。交替選手を、あのテンションの高い中に、投入してもついて行けなかったと思う」と、試合後の記者会見で氏は語った。しかし、僕はそれでも交替は行うべきだったと思う。

 そもそも僕には、メンバー交替が1度も行われなかった試合を見た記憶がない。タイトルが掛かった試合でも、この試合よりテンションが高い試合でもだ。その点だけをとりあげても、それは常識的な監督采配には見えない。異常というべき采配なのだ。

 タイトルが掛かった試合で、監督が普段とは違う姿をさらけ出したということは、緊張のあまり固まってしまったからと考えるのが自然だ。

 いま現在がいっぱいいっぱいの、頼りない存在に見えてしまうわけで、監督の株は自ずと下がる。五輪出場を果たした功績と天秤に掛けても、である。監督としてカリスマ性は生まれない。少なくとも、それ以上にプレッシャーの掛かる日本代表監督は任せられないという話になる。なにより選手が、最も強くそれを思うだろう。サブの選手はとりわけ。スタメンを飾った選手と、それ以外の差がもの凄くあったわけではない。実際、スタメンは試合毎に変わっていた。

 しかし、やはり風邪のせいだろうか、同情したくなる気持ちも湧いてくる。試合直後、テレビのインタビューに、声を裏返しながら、ハイテンションで答える反町監督の表情には、半端ではないプレッシャーの程がうかがえた。嘘でもそれを押し殺し、常に格好良く、理屈っぽい口達者を装うのが、反町監督本来の姿だ。悪く言えば、嫌なヤツ風に見えるところが、持ち味なのだが、インタビューでは無防備な姿をさらけ出した。

 以前、僕は「もし予選で敗れたら、どうするんですか、反町監督?」と嫌みな質問をしたことがある。もちろん半分冗談で。すると深刻な顔でこう答えたものだ。「うん、街は歩けない。日本にはいられないだろうね。スペインあたりにでも身を隠すしかない」。

 それだけでは済まなかったに違いない。もしサウジに敗れたら、その瞬間、反町監督はぶっ倒れちゃったんじゃないだろうか。

 「日本代表監督」に掛かるプレッシャーは、世界でも指折りだ。日本ほど代表中心主義で染まっている国は、世界でも珍しいのだ。五輪チームも例外ではない。

 巷ではいま、次期日本代表監督問題が取り沙汰されているが、日本人で代表監督に就きたがっている人は、どれほどいるだろうか。加茂サンだって倒れたことはあるし、岡田サンだって最後の頃の表情は、引きつりっぱなしだった。日本語がほとんど理解できないトルシエだって、プレッシャーから体調を崩したという話だし、あのジーコでさえ胃潰瘍になったという。オシムさんもしかりだ。4位に終わったアジアカップを機に、オシム節から冴えは失われた。掛かるプレッシャーを隠せずにいた。

 なってみたいような、みたくないような。僕が反町監督なら、ちゃんとメンバー交替はできただろうか。文句を言っておきながら、つい、僕自身に弱気の虫が頭をもたげる。風邪だから、そう思うのか?

 そうこうしていると、UEFAのホームページで、文字だけのライブ中継が始まった。注目のイングランド対クロアチアの行方は……。

 オッと、クロアチアが先制した。オッ、すかさず追加点も叩き出した。イングランド代表の監督は大変だ。

 長い夜はまだまだ続く。

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