Column from SpainBACK NUMBER

エジミウソンの衝撃告発。 

text by

鈴井智彦

鈴井智彦Tomohiko Suzui

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photograph byTomohiko Suzui

posted2007/12/06 00:00

エジミウソンの衝撃告発。<Number Web> photograph by Tomohiko Suzui

 「Oveja Negra(オベハ・ネグラ)」、スペイン語で黒い羊。

 いまやこのオベハ・ネグラは流行語になっている。白い羊のなかに黒い羊が混じる──つまり、家族や集団の「はみ出し者」のことだ。バルセロナにあるナンパで有名な飲み屋「オベハ・ネグラ」のことではない。エジミウソンがブラウン管を通して、「バルサにはオベハ・ネグラがいる」と衝撃の告発をしたのだ。

 「ときおり、私たちの職業であるフットボールが二の次になっており、何人かはこういいます。会合があるから、あるいはCM撮影のために遠出しないといけないから、練習を早めに切り上げる、と。私たち選手が生きている世界は他とは少し異なります。なぜなら、お金や名声、女性などを簡単に手にすることができるから。たびたび本当に価値のあることから離れてしまうんです」

 エジミウソンには「神父」というニックネームがある。ブラジル代表でも、何度かキャプテンを務めた選手である。「こういう発言はロッカールームですることだ」とも非難されたが、大多数は、バルサで何かが起きている、と誰もが神父の声に耳を傾けたのだ。

 神父は、プジョルにも熱弁をふるったという。

 「気持ちのある選手はいます。プジョルはロッカールームで力説するときがあります。でも、首根っこをつかんでひとりひとりに直接いうことも必要です。戦うぞぉ、とね。だから、ロッカールームでもグラウンドでも私は選手たちと兄弟のように口論します」

 バルサの「黒い羊」は誰なのか。街の噂では、十中八九ロナウジーニョの名前があがる。ロニーも、鈍感じゃない、「はみ出し者はオレだ」と察知する。

 ロナウジーニョのお金にまつわる話はいまにはじまったことではない。スポーツ選手のなかでは世界でも10本の指に入る高額所得者だ。数年前には、こう話している。

 「いくら儲けただなんて知らない。お金のことを考えたのはボクの母さんの家を買ったときの一度きりだ」と。

 いまさらお金に溺れるタイプでもないだろう。クルマ、トケイ、そしてオンナ。欲しいものは何でもかんでも手に入れた。しかしながら、ロナウジーニョが「黒い羊」の第一候補にぴったりなのも頷ける。だから、評判もかんばしくない。

 ポルトガル代表のブラジル人監督スコラーリの見解はこうだ。

 「すでにフットボリスタとして最高潮に達してしまった。もっとも素晴らしかったのは2004年から2005年。2006年は少し落ちた。そもそも10年の間ずっと同じレベルを保つことはできないと思う」

 ブラジル代表監督のドゥンガはもっと手厳しい。

 「ロナウジーニョにはスピードが足りない。相手を置き去りにするダッシュ力がない」

 元ジュビロ磐田の監督と主将は、ふたり揃って世界ナンバー1はカカだという。ロナウジーニョのことは少しも褒める気配がない。

 ロナウジーニョはピッチで汚名返上したくてたまらないだろう。だが、W杯南米予選からバルセロナに戻ったロナウジーニョは、疲労のため、数試合控えにまわされた。12月1日、「バルサの黒い羊はロナウジーニョだ。ブラジル代表でも」なんていうメッセージが掲げられたエスパニョールとのバルセロナ・ダービーでも、回復はしていたはずだが、ライカールトの決断はベンチ・スタートだった。先発は、ボージャンである。

 ダービーは1対1のドローに終わった。しかし、彼らの感情は対照的。エスパニョールは「満足感」を得て、バルサは「不快」な思いをした。その負の象徴がロナウジーニョだった。

 先制した前半は、完全にバルサ・ペースだった。しかし、それを忘れてしまうくらい、後半になるといつものように立場をひっくり返された。

 「フォワードにバルサのセンターバックに対してプレッシャーをかけさせ、全体的にラインをあげた。これは相手にスペースを与え、とても危険な賭けだった。とくにメッシのような選手には。だが、私たちは完全な成功を収めた」(エスパニョール・バルベルデ監督)。

 1点のビハインドを追うバルベルデは後半、勝負に出た。大胆にも、ラインを大幅にあげたのだ。これに釣られてバルサのDFラインは下がるが、カウンターが狙えた。メッシが何度もGKカメイを脅かす。しばらくは「耐えるか、追加点か」(ライカールト監督)の展開だった。

 しかし、後半19分、同じ時間に投入されたコロとロナウジーニョが対照的な働きをする。

 数年前のロニーなら、最後に美味しいところをかっさらっただろう。でも、バルサの10番はというとセットプレーでしか輝けなかった。コロは同点ゴールを決め、ヒーローとなった。

 エジミウソンは覚悟していた。

 「もしかすると、誰か怒るかもしれません。でも、そんなの関係ないです」

 告発に報道陣を利用したのも、エジミウソン神父の計算だろう。この荒療治が吉と出るか、それとも涙のクリスマスとなるかは、「黒い羊」にかかっている。

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