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対アバディーン 2対1勝利「いい選手だよね。」 

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鈴木直文

鈴木直文Naofumi Suzuki

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photograph byNaofumi Suzuki

posted2005/09/20 00:00

対アバディーン 2対1勝利「いい選手だよね。」<Number Web> photograph by Naofumi Suzuki

 緑色の“Hoops”に身を包んだ中村俊輔を、遥かに見下ろす。2階席の上から5列目辺り、ピッチから最も遠い席である。こんな場所でも、左右にはシーズン・チケット・ホルダーがずらりと陣取る。小さな子供2人を左右に座らせたほろ酔い加減のオヤジが「お前、ナカムーラの兄弟か?よく来た、ここに座れ」なんていいながら、空いた席を勧めてくれた。如何にもセルティック・サポーターらしいホスピタリティ……と思ったら、周囲の人々は彼に同調するでもなく、意外なほど冷ややかだ。中村俊輔を観に来る日本人なんて、今更珍しくも無いのかもしれない。あるいは、もう“お客さん”扱いの時期は過ぎたということだろうか。(後で分かったことだが、このオヤジ、実は有名なトラブルメーカーらしく、周囲の冷めた反応にはそういう事情もあったのだろう。この日も全席禁煙なのにタバコを吸ってハーフタイムにつまみ出されていた)

 9月10日、アバディーンをセルティック・パークに迎えての一戦、中村俊輔にとってセルティックでの5戦目である。試合前日までストラカン監督は、日本代表でホンジュラス戦に出場、そのままトンボ帰りしてきた疲れと怪我を心配していたが、当日になると「体調は万全ではないが、気持ちは強かった」と先発出場を決めた。

 中村のポジションは右MFで、普段と比べてシティリアン・ペトロフと入れ替わった感じだった。昨シーズン以来、主に右MFで起用されてきたペトロフだが、本来はトップ下で最も機能すると言われている。この日もチームの2点目を挙げた他、持ち前のダイナミックなフリーランニングで何度もチャンスを演出していた。タイプは異なるが、中村とペトロフを如何に同時に活かすかは、今季以降のセルティックの重要なテーマである。(もっとも、26歳にしてチーム最古参のペトロフはセルティックで最も「売りどき」の選手と言われプレミアからのオファーも届いているし、中村はご存知の通りスペイン行きが希望だから、「今季限り」のコンビである可能性は結構高い)。

 前半の中村は中々フリーでボールを持てなかったが、彼独特の流麗なボール捌きに時折拍手が沸く。少しシフトアップした後半は、見せ場が増える。得点には繋がらなかったがフェイントでDFを翻弄し、アラン・トンプソンの頭へ寸分の狂い無く合わせた右足でのクロスは翌朝の新聞でも“inch-accurate”と評され、賞賛の的だった。(ちなみに、こちらでは中村は、特に「左利き」のイメージでは見られていないようだ。彼らにすれば右も十分巧いのだ。トンプソンと比べれば分かるけれど)。さらに、中盤のライン際でパスを受け、ペトロフとのワンツーで中央に切り込みながら鋭い楔をハートソンへ、そして左サイドのカマラまで、全てダイレクトで繋いだ展開は、スタジアムが最も沸いたプレーの一つだった。

 翌日の新聞はこう評した。「エキサイティングというよりは、効率的」(The

Herald)──まさにそんなパフォーマンスだった。デビュー戦から約1カ月半、5試合を戦って、サポーターの「お気に入り」の仲間入りは果たしてはいる。好奇の眼と最高のホスピタリティを持って迎えられたデビュー戦。1アシストを記録した2戦目。退場劇の割を食って不完全燃焼だった“オールドファーム”・デビュー。そして初得点をあげた前節。出来不出来の波があっても、ボトムラインとしての実力に対する信頼は揺らがない。「いい選手だよね」というのが、多くのファンの偽らざる感想だろう。

 一方で「いい選手」という評価には、ある種の歯がゆさも含まれているように感じる。アグレッシブで献身的な守備、中盤でインターセプトした時に一気に加速するスピード感、仕掛けどころの1対1でファイトする姿勢。そういうものを、武骨なグラスウィージアン(Glaswegian=グラスゴー人)は好むのだ。それはまさに、例えばペトロフのスタイルに象徴されるものである。中村の技量に感嘆する一方で、時折露呈される「ひ弱さ」への落胆が見え隠れする。

 70分、ジョン・ハートソンに続いて中村の交代が告げられる。周囲の観客が一人、また一人と、スッと腰を上げる。ハートソンの時にはまばらだった拍手が、大きく広がっていく。だが、スタジアムを包む優しげな喧騒には、心なしか、熱いうねりのようなものが欠けているような気がした。

 中村俊輔が本当の熱狂をこのスタジアムにもたらす日まで、その戦いの記録を、ここグラスゴーの地からレポートしていきたい。

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