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嗚呼!アトレティコ。 

text by

鈴井智彦

鈴井智彦Tomohiko Suzui

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photograph byTomohiko Suzui

posted2006/02/09 00:00

嗚呼!アトレティコ。<Number Web> photograph by Tomohiko Suzui

 アルゼンチンの全国紙『Ole』にでかでかとこんなタイトルが躍っていた。

 「Se retoro(引退した)」

 一面を飾っているのは、ボカやベレスなどアルゼンチンで数々の栄冠を手にしてきたカルロス・ビアンキである。ほんの数週間前まで、アトレティコ・マドリーの指揮官だったビアンキは、あっけなく解雇された。今度の仕事はドイツW杯のTVコメンテーターだそうだ。

 開幕前、ロスでキャンプインした頃のアトレティコは、順風満帆だった。「もう、悲劇のシーズンは過ぎ去った」。当時会長だったエンリケ・セレッソの言葉をアトレティたちも信じていた。チームというものはフロント、コーチ、選手の三角関係がうまく成り立つことで力を発揮する。そんなことは古今東西イロハのイだ。

 今シーズンのアトレティコはそれがうまくいっていると思えたから希望が持てた。フロントは驚異的な努力でクラブの経営を回復させた。次に監督に恵まれなかったアトレティコにビアンキがやってきた。さらに、フェルナンド・トーレスに加え、ケジュマン、マキシ、ペトロフといったアタッカーたちが次々に加入した。サポーターが「今年は幻想を抱くことになりそうだ」と力んだのもわからんではない。

 しかも、逃しはしたけど「リケルメとサビオラを獲得したい」とビアンキが言ったのは、昨年の6月あたりのことだった。レンタル期限が切れて、モナコからバルサに戻ったサビオラが新チームを探せば、リケルメも「ビアンキと一緒にプレーしたい」だなんて言ったものだからアトレティは夢を描いた。

 ビアンキは言った。「最低でも来季はチャンピオンズ・リーグに出場する」と。

 でも、やっぱり夢のまた夢で……。

 103年の歴史を誇る古豪アトレティコ・マドリー。リーグ優勝9回の彼らが最後にチャンピオンに輝いたのは、今からちょうど10シーズン前である。スタメンにはキコ(スペイン)、ペネフ(ブルガリア)、パンティッチ(ユーゴ)、シメオネ(アルゼンチン)といった各国の代表選手を擁していた。今シーズンの顔ぶれは、あの時代と似ていた。アトレティたちが早とちりしてしまったのはだからか、とも思う。

 「Los Humos(うぬぼれ)」

 これは、2月5日に行われたバルサ対アトレティコ戦(1−3でアトレティコの勝利)の翌日、スペインの全国紙『Marca』のメインタイトルだ。ちなみにサブタイトルはこうだった。「アトレティコはバルサをおさらいする。そして、リーグは活気付く」。おさらいとは最近の対戦成績をなぞるジョーク。

 レアル・マドリー贔屓の新聞社だけあって、バルサの敗戦はここぞとばかりにトップを飾る。2ゴールを決めたフェルナンド・トーレスはバルサとすこぶる相性がいい。リーグ戦過去4試合は、すべて勝利に繋がるゴールを叩き込んでいる。煎じ詰めれば、プジョルが大好きだった。さんざん、カモにしてきている。

 しかし、昨季も今季もホーム&アウェーともにバルサから勝利をあげているのはアトレティコだけだというのに、彼らはいたってボチボチな11位という順位にいる。勢いを信じて、当分はキニエラ(サッカーくじ)でアトレティコ勝利に印をつけたい衝動にかられるが、裏切られたりする。不思議な話だ。

 「ボクが結果を残さないと……」とアトレティコの不調を自身に置き換えるフェルナンド・トーレスは、ビアンキの去就にこう触れている。「ビアンキひとりの罪じゃない。選手全員にも罪はある」と。トーレス次第でゲームが左右されるといわれ続けているアトレティコが、バルサ戦勝利によって目覚めるだろうか。アトレティの夢は叶うのだろうか。

 ところで、わずか6カ月で去ったビアンキとアトレティコは2年契約を交わしていたことから約束どおりのお金を支払わなければならない。その金額は600ミリオン・ペセタといわれている。5億円近い退職金が手に入るのなら、56歳のビアンキがさっそく老後を考えてもおかしくはないだろう。そりゃ、引退もちらつく。

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