レアル・マドリーの真実BACK NUMBER

ロペス・カロとルシェンブルゴを比較する。 

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木村浩嗣

木村浩嗣Hirotsugu Kimura

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posted2006/02/08 00:00

ロペス・カロとルシェンブルゴを比較する。<Number Web> photograph by AFLO

 今やロペス・カロ様さまである。

 ほんの1カ月前ビジャレアルに引き分け、バルセロナとの差が13ポイントに広がったとき、「ルシェンブルゴより酷い!(ルシェンブルゴ解任時の勝ち点差が6、カロ就任後4試合で7)」と解任を訴えた連中は、記憶喪失にかかったようだ。もう舌の根も乾いただろうから、前言をひるがえしちゃえ、ということか。ロペス・カロのレアル・マドリーは明らかに良くなっていた。ただ結果が出ていなかっただけなのだ。コンパクトにその改善点をまとめてみた。

(1)システム:4-2-2-2⇒4-1-4-1

 ルシェンブルゴのシステムと言えば、ご存知「魔方陣」だった。縦に2−2−2と並べる変わったシステムとその機能は、あまりに神がかり的で、本人以外、マスコミも選手も理解できなかった。ロペス・カロは4−2−3−1、4−1−3−2、4−4−2を試したあげく、4−1−4−1を選んだ。手持ちの選手の特徴に最も合うと考えたからだろう。システムが先か選手が先か――補強権を握っていれば、システムが先という考え方もあるだろう。実際バルセロナの助監督テン・カテは、就任前から戦略とシステムを決めていたと証言している。が、リリーフ役のロペス・カロは選手優先の考え方だった。

(2)選手の配置:ジダン、左⇒ジダン、トップ下

 ジダン様さまである。ほんの2カ月前と同じ選手だろうか。私も「引退」、「体力限界」などと書いたことがあるので、反省している。さて、ロペス・カロの手によってなぜジダンが復活したのか? 練習の強化でフィジカルコンディションが上がっただけでなく、その配置にも秘密がある。ルシェンブルゴ時代は左サイドを任され、攻撃参加が好きなロベルト・カルロスの背中をカバーするという激務を負わされていたが、トップ下になり守りの負担が減った。背走する距離が短くなり(これはチーム自体がコンパクトになったのも一因)、マークから解放され攻めに専念できている。ロペス・カロは選手たちに得意なポジションを与えている。ベッカムを右サイドへ、ロビーニョを左サイドへ、グティをジダンと並べトップ下へ、グラベセンに攻撃の組み立て役を期待せず守備専門のワンボランチへ、と。バプティスタだけが割を食って1トップと専門外のポジションだが、ゴールゲットはともかく前線からのプレスで守りの安定には貢献している。

(3)戦略:中央突破⇒サイドアタック復活

「サイドは捨てる」と大見得を切ったルシェンブルゴとのロペス・カロの最大の違いは、サイドアタックの有無だろう。2月4日、エスパニョール戦の4点はそれぞれ左右サイドのベッカム、ロベルト・カルロス、シシーニョのアシスト&センタリングから生まれたもの。もっともこの変化にはシシーニョ加入も大きい。ミッチェルの控えと軽視していたが、スピード、運動量、ドリブル、センタリングも申し分ない。攻撃だけでなく守備も堅いのがいい。ミッチェルのレギュラー復帰は非常に難しいと思う。

(4)戦術:マンツーマン⇒ゾーン、コーナーキックの守備

 セットプレーの守備には常に問題を抱えてきたレアル・マドリーだが、ロペス・カロはその伝統的な課題を解消しつつあるかに見える。183センチのバプティスタ、186センチのパブロ・ガルシア、188センチのウッドゲート、183センチのセルヒオ・ラモスと今季の新戦力には巨漢がそろっていたが、コーナーキックやフリーキックには脆かった。改善と断言するにはまだ試合数が足りないが、ロペス・カロになって面白い変化がある。コーナーキックの守備がマンツーマンからゾーンになったのだ。それに伴い非常にクリアが安定している。

(5)選手選び:名前優先⇒実力主義

 「良くなっているがまだまだ全然だ」(カッサーノについて)、「ケガが治っただけでは不十分。試合のリズムについて来られるようでなくては使えない」(ロナウドについて)。ロペス・カロの選手起用は実力優先である。毎週の練習を見て「最高の11人を選ぶ」と断言している。それは体重オーバーのカッサーノ、負傷中だったロナウドの慎重な使い方でもうかがえる。この点、ケガの回復を待たずロナウドやベッカムを起用したルシェンブルゴとは違う。選手選考に明らかな規準を示すことは、競争意識を高め、控え選手を腐らせず、レギュラーを慢心させない効果がある。エスパニョール戦では興奮してラフプレーを連発していたグラベセンを前半だけで引っ込めた。退場を恐れただけでなく、罰を与えたのだろう。「良ければ使う、悪ければ使わない」という姿勢を貫いているのはいい。ロペス・カロは選手の掌握術でも前任者を上回っているようだ。

(6)会見:マイクパフォーマンス⇒優等生

 聞かれてもいないのに魔法陣だのなんのと目立ちたがりのルシェンブルゴに引き換え、ロペス・カロの発言は「ミスは内うちで修正するもの」、「選手個人については絶対しゃべらない」と優等生的だ。スポーツ紙も見出しづくりに苦労していることだろう。選手に要求があれば練習や話し合いの場で言い、外部(マスコミやファン、他のクラブ)に漏らして騒ぎを大きくしたり、選手に恥をかかせたりしない。個人よりもチーム優先、チーム内の問題はプライベート、監督は選手を守るもの、という姿勢を一貫しロペス・カロは選手の信頼を勝ち取った。

(7)ゴール後:ゴキブリ踊り⇒全選手一体へ

 ゴールパフォーマンスは、ブラジル軍団限定のゴキブリダンスから全選手が駆け寄るオーソドックスなものになった。チームの和は強くなっているようだ。その一方で前代未聞のブラジル化が進んでいる。エスパニョール戦では、80分にベッカムが引っ込みバプティスタが入ったことで、クラブ史上初めて5人のブラジル人が同時にプレーをした。65分にグティが引っ込みカッサーノが入ったことで、スペイン人がメヒアとカシージャスのたった2人というのも初の出来事だ。ロペス・カロはローテーション制を採っていて国王杯にはセルヒオ・ラモス、エルゲラ、ミッチェルが出場予定。実力優先なら国籍など関係ない、という考え方は筋が通っている。ただ、ルイス・アラゴネス代表監督は頭を抱えているだろうが……。

 こう書き上げてみると、ロペス・カロが非常にオーソドックスな監督であることがわかる。厳しい練習を課し、手持ちの選手に最適のシステムとポジションを生み出し、外部には大口を叩かず、選手を守って結束を強め、規準と規律を明確化する。いずれも監督マニュアルの初歩であろう。私だって自分のチームにはそうしている。だが、レアル・マドリーのような巨大クラブになると、この当たり前が難しい。外圧(マスコミ、ファン)と内圧(フロント)が監督の見栄を膨らませ、名声が選手のエゴを増長する。ロペス・カロの成功は、必ず訪れる不調や危機にいかに平静を保つかにかかっている、と思う。

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