MLB Column from WestBACK NUMBER

アメリカ随一「選手思い」な監督の復帰 

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菊地慶剛

菊地慶剛Yoshitaka Kikuchi

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photograph byGettyimages/AFLO

posted2006/08/22 00:00

アメリカ随一「選手思い」な監督の復帰<Number Web> photograph by Gettyimages/AFLO

 野球に限らずいろいろなスポーツを取材していて、しばしば監督やコーチを評する表現として“Player's Manager (Coach)”という言葉を耳にする。「選手思いの監督(コーチ)」とか「選手の気持ちを理解する監督(コーチ)」と訳すべきだろうか。とにかく選手と親密な関係を築くことができる指揮官と考えてもらえればいいだろう。

 今季からドジャースの指揮を執るグラディ・リトル監督は、以前から典型的なこのタイプの指揮官だと言われている。その逸話として有名なのが、レッドソックス監督時代の2003年ヤンキースと戦ったア・リーグ優勝決定シリーズ第7戦で、先発ペドロ・マルティネス投手の「まだいける」という言葉を信じて続投させたことだろう。この起用法が裏目に出て逆転負けを喫したことで地元メディアから批判を浴び、結果としてチームを去ることになった。

 「私の中では(2003年)シーズンが終了した時点で、すべて過去の出来事になっている。だが自分は、ボストンで自信を持って自分の仕事を遂行してきたと思っている」

 2004年から2年間カブスでGM特別補佐兼マイナー担当捕手インストラクターを務めた後、3年ぶりに監督業復帰が決まった会見で、リトル監督は報道陣の質問に答えた。そして自ら「選手思いの監督」であることが、自分の資質だと強調している。

 「私の強みはコミュニケーションにあると常に感じている。選手のみならず、自分の回りにいる誰に対しても耳を傾けることを忘れない。それこそが自分が長年成功してきた理由だと考えている」

 つまりリトル氏にとって今回の監督業復帰は、ある意味3年前に非難された自分自身を証明できる最良の機会だと捉えることができるだろう。そして今季の彼の指揮ぶりを見る限り、リトル監督の資質が明らかにドジャースに好影響をもたらしているのは間違いない。

 今季のドジャースほど、“監督泣かせ”のチーム状態が続いているのは珍しいだろう。まず開幕から主力選手に故障者が続出し、さらにリトル監督同様、今季1年目のネッド・コレッティGMが戦力見直しを図り、次々にトレードを断行していった。8月下旬の時点で、登録選手25人のうち開幕から残っているのはわずか10人のみ。さらにその10選手にしても、5人までが故障者リストやマイナー降格で一時期選手登録を外れているのだ。これだけ選手がめまぐるしく入れ替わる状況にかかわらず、リトル監督はチームを1つにまとめ上げ、地区首位を走っているのだ。

 オールスター明け直後に1勝をはさんで5連敗に続き7連敗を喫し、地区最下位に落ちる危機的状況を迎えたりもしたが、そこから今度は1敗をはさんで11 連勝と6連勝で一気に首位奪還に成功。17試合というスパンで16勝1敗の好成績を残したのは、ドジャース史上1899年以来の快挙だという。

 「取り立てて特別なことをしたつもりはない。ただ個々の話し合い、自分たちがすべきことをお互いに明確にしているだけだ。自分が注意しているのは、各選手が同じ方向を向いているかを確認すること。各個人がチームとして1つにまとまっているのかが、この時期最も重要なことだ」

 リトル監督の言葉を裏付けるように、今年のドジャースは“滅私奉公”の傾向が強い。長年ショートを守ってきたガルシアパーラ選手が開幕から一塁を守っているし、ケガから復帰したイズタリス選手(すでにトレード移籍)も三塁や二塁での出場を受け入れた。さらに開幕当初は先発だったトムコ投手が最近ではセットアップとして活躍し、トレード移籍したルーゴ選手やホール捕手が前チームでは主力組ながら控えという役割を懸命に全うしている。気難しいことで知られるケント選手にしても、故障明けに一塁での出場に従っているのだから驚きだ。

 「上手く回っているなと感じます。勝つという目的のために皆がつながっていて、選手個々の思いを抑え込んでいる。どんどんチームがいい方向に向かっているのも監督の手腕なのだと思います」

 クローザーに抜擢され大活躍を続ける斉藤投手も、常日頃からリトル監督の気配りに感激する言葉を繰り返す。現在斉藤投手以外にも、エシアー選手、マーティン捕手ら新人選手が次々に台頭してきたのも決して偶然でない気がする。

 「Player's Manager?自分は常に選手に対し真摯に接し、時として選手が欲しない場合でも“真実”だけを話している。人から何と呼ばれようが関係ない。自分が気にしているのは勝つことだけだ」

 前述通り、3年前は選手を信用しすぎた“温情”采配を非難されたりもした。だがリトル監督に内在する“Player's Manager”としての本質は、勝利に対し常に厳格であり続け、選手に対し裏表なく接する姿勢なのではないだろうか。取材する立場からも、魅力溢れる監督であることは間違いない。

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