チャンピオンズリーグの真髄BACK NUMBER

エトーの離脱で空いたサイドの穴。 

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杉山茂樹

杉山茂樹Shigeki Sugiyama

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posted2006/10/02 00:00

エトーの離脱で空いたサイドの穴。<Number Web> photograph by AFLO

 ブレーメン戦とのアウェー戦。バルサの先発FWには、エトー、ロナウジーニョ、ジュリの3人が名を連ねた。この試合は、いわば今季、最初に迎える大一番。ブックメーカーからチャンピオンズリーグの本命に推されるバルサとしては、ここでつまずくわけにはいかない。もし敗れることになれば、チェルシーが同組にいるだけに、グループリーグ落ちの可能性さえ出てくる。メッシが外れた理由は、そこにあると考えられる。

 ロナウジーニョはいつの間にか、内に絞ってプレイする癖がある。右サイドのジュリとは対照的に、左のポジションを守り通すことはない。性格上できにくいのだ。だが、この奔走さも、エトーがいるからこそ許される振る舞いだ。ロナウジーニョが絞れば、エトーが開く。センターフォワードが左ウイングの位置で構えることで、バランスは保たれている。しかしそれにメッシが加わるとどうなるか。彼もまたロナウジーニョ同様、内に絞ってプレイする癖がある。チームのバランス感覚に敏感ではない選手がロナウジーニョ1人なら、エトーのカバーリングでなんとかやりくりできるが、メッシを加え3人中2人になるとバランスは崩れる。下手をすると3人が3人とも真ん中に固まる恐れがある。

 問題はむしろ、ボールを奪われた瞬間、顕著な形になって現れる。相手の両サイドバックの攻め上がりをケアする選手はいない。サイドの数的な関係は、その瞬間1−2に陥る。相手にとってはチャンス到来である。

 いま、好チームには必ずと言っていいほど優れたサイドバックがいる。彼らの攻め上がりの回数が多ければ多いほど、チャンスは拡大する。8月末、モナコで行われた欧州スーパー杯がその良い例だった。エトー、ロナウジーニョ、メッシの3人を先発させたバルサは、セビーリャに0−3の完敗を喫したのだ。マンオブザマッチに選ばれた選手が、セビーリャの右サイドバック(ダニ・アウベス)だったことは、バルサの惨状を雄弁に物語る何よりの材料になる。

 セルタ戦(リーガ開幕戦)は、ロナウジーニョが故障で欠場したため、エトー、ジュリ、メッシがスタメンを飾ったが、第2週のオサスーナ戦ではロナウジーニョが復帰したため、問題の3人が先発出場を飾った。結果はバルサの3−0。さらに第3週のラシン戦も3人は揃い踏みを果たし、3−0の結果を得た。バランスは崩れても問題は起きなかった。オサスーナ、ラシンには、バルサの穴を突くだけの力が不足していた。ライカールトの選択もそう判断した末のものだったに違いない。

 いっぽうチャンピオンズリーグでは、ブレーメン戦のみならず、5−0で大勝したレフスキ・ソフィア戦でも、メッシを先発から外している。チャンピオンズリーグに対し、慎重な姿勢で臨むライカールトの姿勢がうかがい知れる。ターンオーバー性を敷きながらも、肝心な場面では、ジュリを優先させている方針が見え隠れする。

 リーガに話を戻せば、第4週のバレンシア戦では、第2週、3週同様、例の3人が先発出場した。結果は1−1。バレンシアの右サイドバック、ミゲルに縦を突かれ、ホームで手痛い引き分けを演じた。

 ブレーメン戦が行われたのはその3日後。結果は1−1で、終了間際にやっと同点に追いつく本命らしからぬ内容だった。ジュリを先発させたにもかかわらずだ。話をややこしくさせるのは、同点ゴールをたたき込んだ選手が、メッシだということだ。彼の個人技がバルサの窮地を救った。戦術重視のこれまでの話に従えば、いささか皮肉めいた結果に聞こえるが、ともかくこれは、選手の個の魅力が、理屈に勝ったケースであることは確かだ。

 しかし、一昨季のチャンピオンズリーグ対ミラン戦にしても、シェフチェンコの鮮やかなヘディングシュートを生んだ要因は、右サイドバック、カフーの攻め上がりにあった。その時、ロナウジーニョは、相手ゴールに近いところで、カフーの攻め上がりを傍観していたのであった。

 チェルシーに逆転負けを喫した同じく一昨季の決勝トーナメント1回戦でも、カウンターからサイドを突破されたことが敗因であり、昨季の準決勝、対ミラン戦でも、スタムの攻め上がりに手を焼いた経緯がある。確率的には、理屈の方が断然勝っている。

 そこで問題になるのが、エトーの故障だ。半月板損傷で5ヶ月の戦線離脱。チャンピオンズリーグの決勝トーナメントに間に合えば御の字という重傷である。いったいライカールトは、窮状をどのような方法で凌ぐのか。バランスの維持に誰よりも気を遣っていた選手を失ったわけだ。

 リーガの第5週、対アスレティック・ビルバオ戦では、エトーに代わりグジョンセンがセンターフォワードとしてスタメンを飾った。左はロナウジーニョで、右はメッシ。バランスはこの上なく悪かった。グジョンセンには、ロナウジーニョが内に絞れば、自ら外に開いて構えるエトーのような器用さはない。その結果、3人は中央に乱立した。その影響なのかどうか定かではないが、バルサはいきなり失点を献上した。

 すると、ライカールトはジュリを投入した。アウトした選手は守備的MFのエジミウソン。攻撃的MFのシャビをエジミウソンのポジションに据え、シャビのいたポジションには、ロナウジーニョをあてはめた。

 FWは左からメッシ、グジョンセン、ジュリ。メッシの内に絞る傾向は相変わらずだったが、グジョンセンとジュリがポジションを守ったため、バランスはずいぶん回復した。相手に退場者が出たことも手伝い、それでも見え隠れする穴を、ビルバオに突かれることはなかった。グジョンセンもゴールを決め、場は丸く収まったかにみえた。

 それだけに今後、ライカールトがどんなメンバーを先発に並べるか興味は募る。サイドで起きる数的不利は、レベルが上がれば上がるほど、大きな穴になる。

 チャンピオンズリーグで次に対戦する、チェルシーの出方も気になるところだ。こちらは今季、昨季までの4−3−3をやめ、4−4−2で戦っている。シェフチェンコを獲得したことで2トップサッカーに変身したわけだが、サイド攻撃の威力が、昨季より低下した事実は否めない。バルサにはやりやすい相手になるのだが……。したたかなモウリーニョが、穴を見逃さないはずはない。サイドを厚くして臨む可能性は大いにある。チェルシー対バルサ。両監督の采配に目を凝らして損はない。

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