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ビルバオ ― ―生真面目な模範生クラブ。 

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鈴井智彦

鈴井智彦Tomohiko Suzui

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photograph byTomohiko Suzui

posted2005/02/04 00:00

ビルバオ ― ―生真面目な模範生クラブ。<Number Web> photograph by Tomohiko Suzui

 2月13日のビルバオ対ベティス戦。退場者を出して10人となったベティスだったが、79分にオリベイラがハットトリックが決め、4−4の引き分けに持ち込んだ。ビルバオのサン・マメス・スタジアムはバスク人が放つ独特な雰囲気とイギリスのような雨雲に包まれ、芝のコンディションもバスクならではの状態。セラ・フェレール監督も「結果には満足している」と、答えた。だが、すかさず地元記者からのツッコミが入る。「3点先制したのに、満足ですか?」と。

 ホアキンのマークにはデル・オルノがついた。ふたりのスペイン代表が重なったサイドはベティスの圧勝だった。前半も30分と経たないうちにオリベイラ2発とホアキン1発でゲームの主導権を握った。だが、指揮官がこの3ゴールを忘れてしまうほど試合の流れは変わった。32分と34分、ビルバオはわずか2分の間にコーナーからウルサイスが頭で2ゴールを返すと、後半69分にはイェステが逆転弾を突き刺した。この5分後にはベティスのセンターバック、レンボが2枚目のイエローを受けて退場になるのだから、バスク人のスピリッツとは計り知れないのだと再認識させられる。そもそも、前節でもビルバオは残り15分足らずから、3失点を帳消しにするどころか、勝利を奪っている。

 アンダルシア人はいかにもラテン的で賑やかなイメージがある。その日に稼いだお金はその日の飲み代としてしまうから、いつも財布はスッカラカン。そんな笑い話がピタリとくる。ベティスはそんな土地のクラブだ。

 いっぽう、バスク人は勤勉で寡黙なイメージがある。心身ともにたくましく、マジメ。スペイン人のジョークでこんな例えがある。水の入ったタライに顔を一番長くつけていることができたら賞金がもらえる、という話で。最後まで顔をつけていたのはバスク人だが、いつまでたっても顔をあげない。気がつくと息がなかった、というオチ。ちなみにアンダルシアの人は逃げて、マドリッドの人はばかばかしいと怒って帰り、ガリシアの人はルールをまったく聞いていなくて、カタルーニャの人はインチキしていたとか。あながち、ハズレじゃない。だから、魂を削ってでも試合に立ち向かう彼らの気合は、過去のスペイン代表において重宝されてきた。イェステなどは、アラゴネス代表監督にお薦めしたい選手だ。

 ビルバオはバスク人だけで成り立っているクラブで、欧州のビッククラブの理想とされている。監督も選手も役員も外国人は一切認めない。100年前から、ずっとだ。しかも、彼らはバルサやレアルらにも一泡ふかしたりもするから不気味な集団である。スペイン北部のアラバ、ギプスカ、ビスカーヤの3県からなるバスク地方はスペインから独立する動きもあるほどで、テロ組織まである。日本でも東海3県出身者だけのクラブがあっても悪くない。静岡、愛知、三重。面白いが、3県はそんなに絆が深くないか。

 雨の止んだサン・マメスは揺れていた。2試合連続の大逆転劇に興奮していた。ところが、79分、ひとり少ないベティスのオリベイラに同点ゴールを決められるという、とんだ結末を迎えることになった。いうまでもなく、スペイン・リーグで4対4というスコアは今シーズン初めてだ。1試合に8ゴールなんて「生きたゲーム」はそうそうないだろう。

 かつて、ビルバオはチャンピオンズ・リーグにも出場したことがある。今シーズンもUEFA杯と国王杯を勝ち進んでいる。スペイン・リーグでも、今のところ10位と中堅クラスをさまよっているけれど、Aクラス入りも夢ではない。そんなビルバオの強さの秘密はなんなのだろう? カタラン人に聞いてみた。「ビルバオはバスクの優秀な選手を片っ端から金で獲得するからだ。汚い。レアル・ソシエダが育てた若い選手を奪うのが、彼らの手だから」と。そういえば、エチェベリアはソシエダから引き抜かれた。けれども、ビルバオの選手のほとんどはユース育ちだ。これはカタラン人の嫉妬といったところなのか。

 それにしても、異色なクラブである。バスク人だけのクラブなんて、南米からの移民が多いアンダルシアでは想像できないし、バスクだからこそ1世紀も続いていると思う。バスク語はバスク人しか理解できない。他の地域のスペイン人は「さっぱり、わからない」という。スペイン語よりも、文法は日本語に近いとも聞く。それほど、スペインでは浮いている。

長い歴史のなかで、2部リーグに落ちたことのないクラブは3つある。レアル・マドリーとFCバルセロナ、それにビルバオだ。8度のリーグ優勝を誇る彼らが、最後に2連覇を果たしたのはいまから23年前である。派手な商業化が進むフットボールの世界の中で経営に苦しんでもいる。だが、きっとアスレテック・ビルバオはいつまでも模範生でいてくれるはずだ。

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