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寂しく終わるシーズン。 

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木村浩嗣

木村浩嗣Hirotsugu Kimura

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posted2006/05/17 00:00

寂しく終わるシーズン。<Number Web> photograph by MarcaMedia/AFLO

 シーズンが終わろうとしている。「最高なのは終わることだ」というカシージャスの言葉は2年前にも聞いた。あの時は「早く終わって欲しい」だっけ。

 延期となったセビージャ対バルセロナのしわ寄せで最終節がズレこみ、今晩(16日)レアル・マドリーはセビージャと最後の試合を行う。レアル・マドリー(70ポイント)VSセビージャ(65ポイント)、バレンシア(69ポイント)VSオサスナ(65ポイント)と2〜5位の4チームが激突し、2位(=チャンピオンズリーグ予備予選免除)と4位(=チャンピオンズリーグ最終枠)を争う。ジダンのほか何人かはこれがレアル・マドリーのユニフォーム姿を見る最後の機会だろう。「最後」と言えばカッサーノは召集すらされなかった。練習には普通に参加していたから、ケガという公式見解は疑わしい。本当に何のために獲ったのだろう?子供のときからの憧れだったユニフォームを、彼は何のために着ているのか?

 エキサイティングな夜は望むべくもない。サッカーファンとメディアの関心はパリに向いている。「2位狙い」には興奮よりも憂愁が漂う。宿敵バルセロナの前座扱いは悔しかろう。

 「ジダンネス、パボンネス(攻撃陣を世界のスーパースターで固め、守備陣を生え抜きの若手で賄う、フロレンティーノ前会長の補強方針)の言葉がチームを分裂させてしまった」とジダンが認めた。内容はまったく目新しくない。フロレンティーノ自身やパブロ・ガルシア、エルゲラ、セルヒオ・ラモスらが口にし、メディアが散々騒いで来たことだ。やはり分裂はあったのだ。

 だが、ジダン自身を含めて誰もそれを解決しようとしなかった。話し合おうとはしなかった。偉大な選手たち同士の「尊敬」はいつしか「敬遠」に変わっていたのだ。「ベックやラウールやロニーには何も言えない。気を遣ってしまうものだ。我われはそこでミスをした」と別れの言葉は率直だ。

■選挙は7月2日。進んでいる「根回し」

 会長選挙の日程は7月2日に決まった。前回も書いたが、まあやっていることは政界と同じ。選挙戦を1ヵ月半後に控えた今は「根回し」の時期である。反フロレンティーノ派、親フロレンティーノ派、どちらにも属さない独立系が入り混じってまずは統一候補の擁立を画策している。なにせ立候補するには莫大な供託金(4500万ユーロ!との報道があった)が必要で、候補者は絞り込めるのなら絞り込んだほどいい。

 と、同時に補強とチームのプランニングを担当するスポーツディレクター、監督、獲得予定選手の選考も進んでいる。これも前回のレポートで言及したが、会長選挙とはいえ、ソシオ(会員)たちは会長自身ではなく、今後4年間(会長の任期)のチームづくりの設計図の方に投票するのである。いかに魅力的な人材で周りを固めるかが、勝利の鍵だ。

 現在、立候補を表明している候補と、派閥、プラン(いずれもまだ噂の段階だが)を紹介してみよう。

ビジャール・ミル(独立派)……フロント経験のある長老。レーサーとして国民的人気のカルロス・サインツと組み、新鮮さも盛り込む。スポーツディレクター:フェルナンド・レドンド ご存知、往年の名プレーヤー。監督:マイケル・ラウドルップ 現ブロンビー監督。本人は否定したが。

ラモン・カルデロン(親フロレンティーノ派)……フェルナンド・マルティン前会長追い落としのシナリオを書いたとされる。監督:ベルヌ・シュスター 現ヘタフェ監督。辞任寸前の現スポーツディレクター、ベニート・フロロのお薦め。これも本人は否定。

ホアン・パラシオス(反フロレンティーノ派)……ロレンソ・サンツ会長時代フロント経験あり。最もラディカルな反フロレンティーノ派とされる。彼が選ばれれば銀河系軍団の顔ぶれは大幅に変わるだろう。監督:カマーチョ、スポーツディレクター:ビセンテ・デル・ボスケ 本人は否定。このほかブトラゲーニョとプレーしたミッチェル(現ラジョ・バジェカーノ監督)も加わるらしい。

フェルナンド・マルティン(独立派)……立候補は未定。フロレンティーノ会長への恨みはあろうが、ビジネス界を捨てるほどサッカーへの愛着があるかどうか。彼のプランは監督アンチェロッティで、ティエリ・アンリ獲得にも動いていた。が、会長辞任でそれも白紙になった。

マルティン・ラレドとロレンソ・サンツ(反フロレンティーノ派)……片や落選続けて30年、片やフロレンティーノ時代の前の会長。現在は選挙の陣営固めよりも、クラブの会計報告の不透明さを糾弾するからめ手から攻めている。実は公式発表を大幅に上回る大赤字だというのだ。

 今後の日程としては公示後10日間で正式な立候補者が決まり、6月15日から30日が運動期間となる。ワールドカップの最中だが、前回のような無風選挙(フロレンティーノが90%以上の得票で圧勝)ではないから、注目度はかなり高くなるだろう。対立、憎しみの構造がはっきりしているから、私のような外野にとっては舌戦が楽しみでもある。

 さてその一方で、前回予告したとおり補強の動きはピタリと止まった。アンリの獲得はもう絶望。数日後に身の振り方を明らかにするというから、選挙を待っていたのでは間に合わない。ディアラ(オリンピック・リヨン)、キブ(ローマ)、アシュリー・コール(アーセナル)ももたもたしている間に他のクラブにさらわれてしまう可能性がある。

 1998年、レアル・マドリーに7度目のヨーロッパチャンピオンの栄冠をもたらしたミヤトビッチは、「偉大な選手は行き先をすぐに決めたいと思うものだ。いい補強は不可能とまで言わないが困難だ。1シーズンを捨て出直す覚悟でいた方がいい」という悲観的な見方をしているが、それもしょうがない。スポーツディクレターが無意味化し、監督の頭越しに選手を獲得するという出鱈目が今日のカオスを招いた一因なのだ。今は筋を通すしかないではないか。

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