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ユーベ「闇の帝王」の辞任。 

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酒巻陽子

酒巻陽子Yoko Sakamaki

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photograph byGetty Images/AFLO

posted2006/05/11 00:00

ユーベ「闇の帝王」の辞任。<Number Web> photograph by Getty Images/AFLO

 欧州サッカー界で「腕利き」といわれたユベントスのGM、ルチアーノ・モッジ(68)が、今季限りでクラブを去り、40年余りの長いキャリアに終止符を打つことになった。原因は、サッカー協会関係者や審判に圧力をかけたという不正が表面化したからである。

 サッカーに対する情熱が人一倍強い国有鉄道の社員だった彼は、1962年にサッカー選手のスカウトマンに転職。そこから登り詰め、ユベントスの幹部に就任というサクセスストーリーを築き上げた。ユベントスの幹部としても数々の実績をあげたが、近年はイタリアサッカー界に対する影響力が大きくなりすぎ、「闇の帝王」と囁かれていた。もはや自制すらできなくなってしまっていたのかもしれない。

 今回、イタリア検察当局が暴いたモッジの「戦略」、つまりユベントスに有利となるような裏工作とは、モッジが審判員を味方につけていたというものである。公開された盗聴内容(2004年8月から2カ月間に及ぶ)によると、モッジはサッカー協会関係者に、公式戦を担当する審判の振り分けに自らの希望を押し付けたり、ユベントスに有利な判定をするように強要する電話を再三かけていた。

 ユベントスという超一流のクラブがなぜ裏工作に依存する必要があったのか。そして、イタリアサッカー協会の統括下におかれる審判委員会という、最もフェアであるべき機関が、なぜ一個人の思い通りになってしまったのだろうか。

 モッジのユベントスでの責務は、最強クラブを作り上げることにある。戦力を増強するにはもちろん資金が必要だ。しかし、親会社のフィアットが、F1への莫大な出費で首が回らない状況にあり、フィアット社に負担をかけることは、立場上、許されなかった。

 モッジにとって、超一流選手、超一流監督を抱え込み、無敵軍団を結成するには、長いキャリアの中で培われたアミチッツィア(親交)を利用すること以外、おそらく不可能だったのだろう。

 パレルモのザンパリーニ会長がいった。「ミランはベルルスコーニ名誉会長のポケットマネーでタイトルを獲得したが、ユベントスはモッジの電話一本でタイトルを手にしてきた」

 審判委員会では、頻発する誤審問題から、若手審判員の育成や資格審査の厳格化などを求める声が常々あがっていた。しかし、それ以上に審判がクラブに取り込まれることがないように、確固たる地位を守り、職務に徹するためにも、審判のプロ契約制度実施のほうが先決だろう。

 健全なセリエAのサッカーを復活させるためにも、イタリアサッカー協会には早急な対応を望みたい。

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