レアル・マドリーの真実BACK NUMBER

開幕戦、薄氷の勝利で見えてきたもの。 

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木村浩嗣

木村浩嗣Hirotsugu Kimura

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photograph byGetty Images/AFLO

posted2005/08/31 00:00

開幕戦、薄氷の勝利で見えてきたもの。<Number Web> photograph by Getty Images/AFLO

 勝つには勝った。が、内容は???──これが対カディス戦でのレアル・マドリーへのスペインメディアの評価だ。私も同じ。優勝候補に推す者からすると、期待を裏切られたゲームだった。

 たった1試合だが、気がついた点がいくつかある。開幕前の予想との「当たり」・「外れ」をまとめてみた。

 ●「当たり!」

 ロビーニョ:柔らかなテクニシャンの鮮やかなデビュー

 途中出場で試合の内容をガラリと変えたロビーニョが、絶賛されている。ヨーロッパの厳しいディフェンスに対抗するため、「フィジカルを鍛えたい」と本人が語ったそうだが、その必要は無いと私は思う。

 胸でのトラップ、ボールを頭上に浮かし持ち替えるソンブレロ(帽子)というトラップ&フェイント、目まぐるしいまたぎフェイント──ボールが体にからみつくような柔らかいテクニックは、まるで空気を抜いたボールを扱っているようだ。技術に余裕があるから体勢が崩れず、周りの動きがよく見えている。その結果、タックルされる前にボールをさばくことができるため、当たり負けの心配は不要。我がままでも強引でもなく周りを使える視野の広さが、今季の成功を約束している。

 ロナウド:決定的な瞬間に決定的な仕事を

 ロナウドはいつものロナウドだった。4分、ボールをチョンと出してマークを外し、素早く体を回させ前を向き、キーパーの届かないところへシュート。チャンスですらない状態から1人で点を入れてしまう。85分の決勝点では、斜めに走りながらロビーニョの足元からボールをかっさらい(スイッチプレー)、キーパーとディフェンダーを引き付けてからラウールへアシスト。それまで80分間の昼寝からいきなりトップへ入る、特異な心と体の爆発力がいかんなく発揮された。

 以上は好材料の中から当たったこと。ここからは的中した心配事を列挙してみる。

 パボン:最終ラインの不安な守りを象徴

 パスミス、ハイボールに対応する際の目測ミスなど、パボンには基本的な技術の部分でミスが多かった。彼だけではない。ロナウドのゴールで先制してからは、カディスの縦への単調な攻撃パターン(スペースへ走りこんだオリへの長いパス、右サイドバックの攻撃参加)をエルゲラ、ミッチェル、ロベルト・カルロスが切ることができない(これは守備戦術の不在もその理由=後述)。

 カディスの同点ゴールのシーンでは、ファーポストにいたミッチェルがオフサイドトラップをかけ前へ出たのに、ニアポストのロベルト・カルロスが残っていたため、パボーニをフリーにし、そのミッチェルの背後にシュートされてしまった。寄せの甘さ、マークの緩さ、オフサイドトラップの不整備による失点だった。「4−2−3−1」から「4−1−3−2」へ移行したことにより、見立てどおりミッチェルとロベルト・カルロスの攻撃参加は減り、その分、守備に専念できるはずだったのだが……。ウッドゲートは遠征には参加したもののベンチ入りメンバーから外れて、やはり開幕デビューは無理だった。

 さて、ここからは予想外、期待外れに終わった点を紹介していきたい。

 ●「外れ!」

 バプティスタ:左サイドだから?攻められない守れない

 左サイドに起用されたバプティスタは、攻守ともまったく見せ場が無いままだった。ペナルティー付近でボールをもらっても強引な突破も無く、筋肉隆々の体を使ってのインターセプトもボールキープも無い。ポジショニングが悪くイーブンボールに届かず、ボールタッチ自体が少なかった。セットプレーから何度かヘディングシュートを試みたのが、唯一、存在を感じさせた。慣れない左サイドへ移され戸惑っているのか?

 グラベセンがアウトになりロビーニョが入ってからは中盤の底を任されたが、それでチームに変化をもたらしたわけでもない。「バプティスタをトップ下に戻すべきではないか?」との議論がメディアを騒がせている。ロビーニョ、ラウール、ロナウドが好調なので、次の試合ではスターティングメンバーを外されるかもしれない。

 守備組織が不在:囲い込めず後退の一手

 最終ラインを押し上げ、コンパクトな守り方をするのでは、との私の見方は外れた。今夏の東京ベルディ戦0−3で敗れた、あの試合の守備を彷彿とさせられた。2トップから最終ラインまでの距離があり過ぎ、ボールホルダーを囲い込むことができない。局面、局面では、1対1の攻防であり、苦し紛れに足をひっかけシャツをつかんで相手を止めるしかなかった。パボン、エルゲラ、ミッチェル、グラベセンら個人の技量不足ではなく、数的有利を作れない=(1)スペースが間延びしている、(2)運動量が少ない、という集団の技量とモラルあるいはフィジカルコンディションに欠陥があるからだ。

 ルシェンブルゴは昨季、コンパクトなスペース作りを実現し、ボランチを2枚から1枚へ減らしたにも関わらず、守りを安定させることに成功した。それがカディス戦のような調子では1ボランチは苦しい。

 システム変更:ロビーニョ投入で“超攻撃的”「4-4-2」へ

 試合前には、「ロビーニョ投入ではみ出る銀河系の戦士は誰か?」が話題になっていた。ラウールかロナウドかそれともジダンか、下馬評はそんなところだった。が、フタを開けてみるとベンチへ引っ込んだのは、なんとグラベセン。バプティスタとベッカムをボランチに下げ、ラウールを右、ジダンを左、2トップをロナウドとロビーニョで組む、「4−4−2」に変えてきた。

 これはある意味、歴史的な瞬間だった。なぜなら芝生の上には、何と6人のフォワードもしくは攻撃的ミッドフィルダーが立ち、ロベルト・カルロスを加え7人の銀河系戦士がそろい踏みしていたからだ。

 とはいえ、繰り返しになるが、このシステム変更が試合の流れを変えたのではなく、ロビーニョが変えたのだ。決勝点を挙げ、ボールを奪い返し主導権を握ることには成功したが、このメンバーでこのシステムが固定されることは無いだろう。

 ルシェンブルゴの誤算:サッカーがつまらない!

 「勝つだけでなくファンタスティックな試合をお見せする」と自信たっぷりに言い放ったのはルシェンブルゴである。サッカーの華がゴールであり、そのゴールへの過程が攻撃であるとするなら、この顔ぶれでつまらないはずはない──誰でもそう思う。しかし、2点をあげ白星発進であったにも関わらず、レアル・マドリーのサッカーは心を躍らせるものではなかった。チャンスの数は最小限、ボール支配率は50%そこそこ。華麗な個人技や天才たち同士の想像を超えるコンビネーションプレーに息を飲むことも無かった。

 技が駄目ならスピードはというと、これも緊張感を生むにはほど遠いもの。スリルが無くハラハラしない。ボールの動きも周りの動きにも意外性が無く、次のプレーの予測がついてしまう。

 0点で引き分けたバルセロナのサッカーの方が、遥かに魅力的だった。レアル・マドリーの強さはシュート数3で2点をあげてしまうところであり、バルセロナの弱さはシュート数10でノーゴールに終わってしまうところだ。勝負はレアル・マドリーの勝ちである。しかし、サッカーの面白さでは文句なくバルセロナに軍配が上がる。

 “薄氷”でも勝つのがレアル・マドリーだ。だから優勝候補の筆頭なのだ。だが、本当の強さは、こんなものではないはずだ。個人の勝負で攻守を打開する能力とその限界はもうわかった。次は、組織の力によるそれを見たい。

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