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アジアカップ予選A組 VS. イエメン 

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木ノ原句望

木ノ原句望Kumi Kinohara

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photograph byTamon Matsuzono

posted2006/09/12 00:00

アジアカップ予選A組 VS. イエメン<Number Web> photograph by Tamon Matsuzono

 「これは日本サッカーの持病、すぐに治らない病気と考えた方がいいかもしれない」。

 9月6日にサナアで行われたアジアカップ予選で、我那覇のロスタイムのゴールで日本がイエメンになんとか1−0で勝った後、オシム監督はそう言った。

 サウジアラビア戦から移動を伴っての中2日での試合でも、酸素が薄い2300メートルの高地でも、ボコボコでボールのバウンドが地表に触れるたびに変わるグランドでも、日本選手は積極的に動こうと努め、決定的なシュートチャンスやハーフチャンスを生み出していた。

 前半12分のMF阿部のミドルシュート、同32分にFW巻がFW田中達也のパスにゴール前フリーの状態で狙ったヘディング、同36分にゴール前へ飛び込んだ阿部のヘディング(オフサイドの判定)や、前半終了直前のDF加地のシュート。

 さらに後半にも、6分にFW佐藤寿人がミドルを放ち、同11分にはDF闘莉王がヘディングを狙い、その後16分後にはMF遠藤がペナルティボックス内で佐藤寿人のパスを受けてシュートを打つ。残り時間が少なくなった39分には巻もヘディング……など、主だったものをあげただけでも、これだけのチャンスを作っていた。

 それでもネットを揺らすことは、ロスタイムに入るまで待たなければならなかった。

 草サッカーをするのも大変そうなデコボコで硬いピッチと高地の影響で、いつもと違うボールのバウンドや飛び方に戸惑い、シュート時のボールコントロールに相当の影響を与えた点は否めない。

 だが、チャンスをいくつも作り出しながら、なかなかゴールを決められず、試合終盤でようやく点をもぎ取るパターンは、ジーコ・ジャパン時代のワールドカップ予選のオマーン戦やシンガポール戦、ワールドカップ出場を決めたあとのアンゴラ戦などと変わらない。冒頭のオシム監督の台詞は、そういう日本のゴール産出の苦悩の“慣習”を指したものだった。

 ベンチで指揮をとるオシム監督が気を揉まないわけがない。その辛さを百選練磨の老将は、「日本代表監督ではなく、炭鉱労働者として働いていた方がましだったかもしれない」と、冗談混じりに吐露したほど気を揉んでいた。

 だが1990年ワールドカップユーゴスラビア代表監督は、決定力不足の責任がチームのFW陣個人に集中することを懸念している。個人攻撃で伸びかけた選手の芽がしぼむことへの心配と、個人の問題で済むほど事は簡単ではなく、課題の根が深いことを示唆している。

 「日本のJリーグで重要なポジションはほとんど外国人選手がやっているので、日本代表に必要な選手が育たない」。

 そしてシュートに必要なのは、技術だけでなく落ち着きだと話し、個々人が所属クラブで常日頃の練習に励んで欲しいと言った。

 指摘された後者の部分は、前任者のジーコ氏と意見を同じにするものだ。指揮官が誰であっても同様なことを指摘されるのでは、「日本サッカーの持病」と言われても仕方がない問題だろう。

 だがその一方で、オシム監督は、プレーのスピードアップやチャンスの数の多さなど、このチームならではの“進歩”というべき違いがあることを付け加えるのを忘れなかった。

 「選手たちはとても疲れている。死にそうなぐらい疲れているのに、今日の試合では走る気持ち、戦う気持ちを出してくれた。もう少し時間を割いて調整し、一緒にプレーできれば、コンビネーションプレーもよくなるだろう。徐々にだが、チームは進歩し始めたと言っていい」

 確かに、選手のオシム・ジャパンの“考えて動くという努力”も形になり始めている。

 この試合では、先日のサウジアラビア戦と同様に4バックでスタートして、前半早々に3バックに切り替えた。だが、今回は遠藤が前の試合以上に中盤でのバランスを気遣いながらプレーし、初先発のMF羽生は2列目でのかき回し役に集中してプレー。相手の違いもあるが、中盤でサウジ戦ほどのギャップは見られなかった。

 運動量こそ低かったが、疲労や高地や荒れたピッチなどの条件を考えると、最後まで集中力を切らさずに動いたと言えるだろう。

 また、我那覇は、「簡単にクロスをあげても跳ね返されるだけ。ゴールラインぎりぎりを狙うとかが必要だと思っていた。得点の場面がそのいい例だったと思う」と、巻のヘディングボールにゴール逆サイドからスライディングで押し込んだゴールは、考えをめぐらした結果のプレーだったと説明した。

 とはいえ、前述のような各クラブでの事情もある。オシム監督は、「発展し始めたといっても、道のりは長い」と、付け加えるのを忘れなかった。

 チームが共に練習する時間も十分とれないまま、アジアカップ予選の今回の過酷なアウェー2連戦を向かえたが、チーム始動からちょうど1ヶ月となった6日のイエメン戦での勝利で、予選2試合を残して3位のイエメンを6差につけ、同夜、グループ首位のサウジアラビアがインドに7−1勝利したことで、日本のグループ2位以内が確定し、アジアカップ本大会出場が決まった。

 さらに重要なことに、始動から4試合を経てチームの進歩の手ごたえも得た。課題克服へやるべきことは多いが、新生日本代表チームとしては、まずまずのすべり出しだろう。

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