佐藤琢磨 グランプリに挑むBACK NUMBER

フィニッシュ 

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西山平夫

西山平夫Hirao Nishiyama

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photograph byMamoru Atsuta(CHRONO GRAPHICS)

posted2006/08/11 00:00

フィニッシュ<Number Web> photograph by Mamoru Atsuta(CHRONO GRAPHICS)

 「新車SA06で初完走しましたが、きびしいレースでしたね」

 雨で大混乱になったハンガリー・グランプリを、初優勝を飾ったJ・バトンから5周遅れの14位でフィニッシュした佐藤琢磨は少し疲れた様子でレースの模様をそう切り出した。

 「けっこう楽しいオープニングラップだったし、直接のライバルのミッドランドより速く走れるところもあってレースしている手応えを感じた」と、収穫が少なくなかったことを語りながら少なからぬ不満が残る様子なのは、新車とはいえSA06のポテンシャルがまだまだ不足しているからだろう。

 予選は20位(降格者が出てグリッドは19位)、土曜日午前中にモノコックとフロアが剥がれるトラブルが出た割には当面のライバルであるミッドランドの1台(アルバース)より速いタイムを記録して「もうこれ以上速くは走れないところまで踏み込めた」満足感を得た。もっとも、もう1台のミッドランド(モンテイロ)は16位で第2次予選まで進んでおり、満足半分・不満足半分で、琢磨としては複雑な心境だったという。

 決勝は心配していた雨。琢磨は木曜日から「ウチのマシンは4年前のサスペンションを使っているため、キャスターアングル(タイヤの取り付け角度)が最新のレインタイヤに合ってない。ハンドルを切ってコーナーに入ると手応えがなくなってしまうので雨だけは新しいフロント・サスペンションが付けられるトルコ以降にして欲しい」と言っていたものだが、恐れていたその雨がやって来た。せめてもの対策として、全11チームの中で唯一スーパーアグリF1チームだけは大雨用のグリップのいいエクストリーム・ウェザー・タイヤを装着してレースに臨んだ。

 序盤はオープニングラップが19位から16位にジャンプし、琢磨らしい粘りを見せていたが、セーフティカーが出動したチャンスに給油。この時、乾き始めた路面に対応させるため小雨用のスタンダード・ウエット・タイヤに履き替え。これで以降の走りが苦しくなった。

 「マシンにダウンフォースが足りないのでタイヤがすぐに冷えてしまう」ことに加えて「最初クラッチがおかしくなって、次に3速ギヤが使えなくなった」トラブル発生。ハンガロリンクにおける3速ギヤは重要で、コース70%くらいで使用するというが、その部分で4速ギヤと2速ギヤを代用。ペースが遅くなるのも当然だった。せめて1回目給油でエクストリーム・ウェザー・タイヤのままで走っていたら、もう少しペースはよかったかもしれない。完走した14台の最速ラップをみると琢磨は14位。自嘲気味に「同じ人に何度も抜かれるんで、何回抜かれるんだろう?と思った」というのも無理はなかった。

 「今週、シルバーストンで新しいサスペンションのチェックをします。トルコでは一段レベルを上げた戦いをしたい」

 完全に新車の体裁を整えたSA06を操る佐藤琢磨に期待したい。

 最後にバトンの初優勝の感想を訊くと「これだけの混戦をよく制したなと思います。ジェンソンに抜かれるたびに速いなぁ、と感じてました。すばらしい1勝です。ジェンソンはボクの前でチェッカーを受けたのですが、よかったなぁと思った」と祝福した後にすぐ付け加えて「これでボクが乗っていたらもっとよかったのに……」と苦笑混じりに語った。

佐藤琢磨

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