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「本命エンゼルス、対抗レッドソックス・カブス、……」セイバーメトリクス的ポストシーズン予測 

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李啓充

李啓充Kaechoong Lee

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posted2008/09/18 00:00

「本命エンゼルス、対抗レッドソックス・カブス、……」セイバーメトリクス的ポストシーズン予測<Number Web> photograph by REUTERS/AFLO

 レギュラーシーズンも残り2週間弱という時点でこの原稿を書いているが、今回は、セイバーメトリクス的手法でポストシーズンの勝敗を占おう。

 セイバーメトリクスについてはこのコラムでも何度も触れてきたが、要は、選手の能力やチームの戦力を客観的データで評価しようとする試みである。しかし、客観的データとはいっても、昔から慣習的に使われてきた数字が能力や戦力の合理的な指標となる保証はない。たとえば、最近は、セイバーメトリクス普及の影響で、「打率」ではなく「OPS(出塁率と長打率の和)」を打力の指標として使うファンが増えているが、換言すると、選手の能力やチームの戦力を現す新たな指標を考案することも、セイバーメトリクスの課題の一つとなっているのである。

 かくして、セイバーメトリクスは、DIPSだのVORPだのWARPだの、略称だけ見てもその意味がわからない無数の指標を氾濫させる罪をも犯すことになったが、レギュラーシーズン中の戦力を現すあらゆる指標の中でも、ポストシーズンの勝敗と相関するのは、

1)三振奪取率(EqSO9)

2)野手の守備による失点防止力(FRAA)

3)クローザーの能力(WXRL)

の三つであることがわかっており、この三つの指標は「ポストシーズン勝利の秘密ソース(secret sauce)」と総称されている。

 「秘密ソース」に含まれる指標はいずれも失点を防ぐ能力に関係したものであり、打力(攻撃力)の指標は一つも含まれていない。セイバーメトリクスは、プレーオフやワールドシリーズの短期決戦では、「点を取る」ことよりも「点をやらない」ことの方が重要だと結論しているのである。

 さて、では、なぜこの三つの数字が短期決戦でとりわけ重要になるかというと、それは、「運命のいたずらの排除」に関係するからだと考えられている。 162試合を戦うレギュラーシーズンの場合、運・不運のばらつきは長丁場の過程で平均化されるのに対し、短期決戦では、1回限りの運・不運の差が、勝負の結果を決めて終わってしまう。たとえば、ポテンヒットや、たまたま野手の間を抜いたぼてぼてのゴロなど、ちょっとした運・不運の違いが勝敗の帰趨をわけて、「おしまい」となってしまうのである。

 運命のいたずらから免れて勝利を確実なものにしようとすると、「打球を打たせない=三振をとる」(奪三振率)、「いざ、打球が飛んだ場合でも着実に処理する」(野手の守備力)、「僅差を確実に守る(マリアノ・リベラ、フランシスコ・ロドリゲス級の)クローザーの存在」の三つが一番重要だと、セイバーメトリクスは教えているのである。(ちなみに、レギュラーシーズンの戦績と相関する指標には打力の数字が含まれ、短期決戦とは事情を異にする)。

 さて、以下に9月15日終了時点での秘密ソースの順位を示すが、各項目の順位1位を1点、2位を2点…と点数化、3項目の総合得点も併記した。

順位チーム総合得点
1エンゼルス18
2ブルージェイズ20
3レッドソックス21
4カブス25
5ホワイトソックス31
6レイズ31
7アストロズ32
8ジャイアンツ34
9ブルワーズ35
10ロイヤルズ36

(上位10チームのみ。データは野球シンクタンク「ベースボール・プロスペクタス」に拠った)。

 というわけで、今季のポストシーズンの結果を秘密ソースの順位から占うと、「本命エンゼルス、対抗はレッドソックス・カブス」という結論が導かれるのである。

 ところで、秘密ソースの第2位にブルージェイズが入っているが、前述したように、短期決戦の強弱とレギュラーシーズンの強弱とでは相関する指標が異なるために、プレーオフに進出する可能性がないチームが秘密ソースの上位に入るという現象が起こりうるのである(ブルージェイズの場合、レギュラーシーズンのチームOPSはリーグ11位と、打力が劣った)。

 9月7日、ヤンキースがブルージェイズに抜かれて4位に落ちたことについて聞かれたA−ロッドは、「ブルージェイズはとてもいいチーム。プレーオフに出ていたらとても怖い存在になっていたし、他のチームはブルージェイズが出てくる心配はないのでほっとしているだろう」と、秘密ソースの解析とぴたり一致する見解を述べたが、正直な意見を述べたことで記者団に突っ込まれる羽目に陥るとは夢にも思っていなかっただろう。

 A−ロッドは、レイズ・レッドソックスとのゲーム差が広がり、プレーオフ出場の可能性が事実上消えた後も、「数字的にはまだプレーオフに出られる可能性はある。可能性がある以上頑張り続ける」と言い続けていたのだが、記者から「いま、『(順位が上の)ブルージェイズが出られない』って言いましたね。ということは、ヤンキースも出られないって、本当は諦めているんですね」と突っ込まれて、「頭が混乱するようなことを言わないでくれ」と、しどろもどろになったのだった。

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