MLB Column from USABACK NUMBER

米大統領選とペナントレース:
バラク・オバマの大間違い 

text by

李啓充

李啓充Kaechoong Lee

PROFILE

photograph byGetty Images/AFLO

posted2008/09/05 00:00

米大統領選とペナントレース:バラク・オバマの大間違い<Number Web> photograph by Getty Images/AFLO

 ペナントレースもたけなわだが、いま、米国は、大統領選挙でも盛り上がっている。先週の民主党大会に続いて今週は共和党大会が開催され、テレビも連日大統領選の報道に明け暮れている。

 と、大統領選は残り2カ月を残すのみとなっていよいよ熱気を帯びているが、大統領選のせいで、プレーオフ出場の機会を失う危機に瀕しているのがツインズだ。本拠地メトロドームを共和党大会(9月1日―4日)の会場として明け渡したために、8月21日から2週間の長期ロードに出ているのだが、この間5勝8 敗と調子を落とし、ワイルドカードを争うレッドソックスとのゲーム差が、0.5から5へと拡大してしまったのである(数字は9月3日終了時点)。

 一方、政治家が、「選挙のためとあれば、利用できるものは何でも利用する」習性を持つのは洋の東西を問わず、ペナントレースが大統領選の話題作りに利用される例も跡を絶たない。たとえば、先週の民主党大会で、地元選出上院議員バラク・オバマを大統領候補として送り出したイリノイ州の代表が、「2008 年、イリノイの首都シカゴは、次の合衆国大統領を送り出すだけでなく、ワールドシリーズの舞台となることも決まっています。そう、カブス対ホワイトソックスのワールドシリーズとなるのです」とやって、気勢を上げた。

 また、民主党のオバマ候補はコロンビア大学を卒業した後、ホワイトソックスの本拠地と知られるシカゴはサウスサイドで地域活動に取り組んできた経歴の持ち主だけに、熱心なホワイトソックス・ファンとして知られている。昔からホワイトソックス・ファンとカブス・ファンとが犬猿の仲にあることは周知の事実であるが、奇しくも、オバマと民主党予備選を激しく争ったヒラリー・クリントン上院議員はカブスの地元ノースサイドの生まれ、生粋のカブス・ファンだった。 2000年にニューヨーク州から上院議員選に出馬した際には、ヤンキースの帽子をかぶって報道陣の前に現れ、「ずっと、ナ・リーグはカブス、ア・リーグはヤンキースのファンだった」と説明したが、ニューヨークの有権者に媚びるための演出だったのか本当にヤンキースのファンだったのかは定かではない。クリントンがヤンキース・ファンであったかどうかの真偽はともかくとして、民主党の大統領候補争いは、ホワイトソックス・ファンとカブス・ファンという「天敵」同士の間で争われたのだった。

 予備選でクリントンを破って勝ち誇ったわけでもあるまいが、8月25日、オバマが、スポーツ専門TV、ESPNのインタビューで、カブス・ファンを徹底的にこきおろして話題になった。「カブスのファンは、球場に行っても酔っぱらうだけで真剣に野球を見ようとはしない。野球を真剣に見るホワイトソックス・ファンとは正反対なのだ」とやったのである。

 9月2日、たまたま所用でシカゴを訪れた私は、カブス・ファンについてのオバマ発言の真偽を確かめるべく、リグリー・フィールドを実地検分した。私にとっては、試合を見ることよりもカブス・ファンを観察することが主目的だったが、まず、開門のはるか前から球場に群がるファンの多さに驚かされた。リグリーの外野席は全席自由席なので試合開始の何時間も前から「いい席を取ろう」とするファンが長蛇の列を作っているし、球場周囲のスポーツ・バーは、どの店も例外なく、立錐の余地がないほど混み合っていた。また、カブスのユニフォーム・Tシャツを着るファンの比率は、一見したところ、フェンウェイのファンがレッドソックス・ウェアを身につける割合よりもはるかに高く、スタンドは青と白のカブス・カラーで埋め尽くされていた。

 さらに、リグリーの場合、「満員売り切れ」は球場内にとどまらず、球場外にも及ぶからおそれいる。外野席後方に建つ民家は屋上を軒並み観客席に改造しているが、この私設場外外野席(ルーフ・トップ)も連日満員売り切れとなるのである。カブスは3連敗中とあって、この日のカブス・ファンはいつも以上に入れ込んでいたことを割り引いたとしても、「試合そっちのけで酔っぱらう」ファンなど一人もいなかったし、オバマ発言は事実と著しく異なることが確認できたのだった(ファンの真剣な応援にもかかわらず、カブスは、延長11回アストロズに逆転負け、4連敗となってしまった)。

 ところで、「カブス・ファンは真剣な野球ファンではない」とオバマが腐した背景には、最後のワールドシリーズ優勝から100年目(最後のリーグ優勝からは63年目)という「常敗」カブスのファンが、歴史的に、「happy losers」というニックネームで呼ばれてきた事実がある。「チームはどうせ負けるのだから、リグリーでは酔っ払って楽しい気分になればそれでよい」とファンが開き直るしかなかった時代が長く続いたからこそのニックネームだが、1998年以降10年の間に3回プレーオフに進出してきたこともあり、カブス・ファンの「勝ちたい」という欲求は年々強くなっている(今年のカブス・ファンのスローガンが「It's Gonna Happen」であることは以前に紹介した)。私が見た試合でも、エラーをしたりチャンスで凡退したりした自軍選手に、ファンは容赦ないブーイングを浴びせていたが、オバマが言うような「真剣でない」ファンなど一人もいなかったのである。しかも、今季のカブスはナ・リーグ最強チームと言われているだけに、100年ぶりのワールドシリーズ優勝にかけるファンの期待はいやが上にも強い。もし、ワールドシリーズ優勝の目標が達成できなかった場合、「happy loser」など一人もいないことだけは間違いないのである。

関連キーワード
シカゴ・カブス
シカゴ・ホワイトソックス
ミネソタ・ツインズ

ページトップ