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「惨めさ」が生む強さ〜中川和之の挑戦 

text by

小尾慶一

小尾慶一Keiichi Obi

PROFILE

photograph byAFLO

posted2005/08/04 00:00

 高校生の頃、中川和之はナイキ主催のバスケットキャンプに参加した。ジェイソン・ウィリアムズ、ポール・ピアス、シャリーフ・アブドゥルラヒーム。そんな若きスターを間近にして、彼の中にNBA挑戦への思いが芽生えた。その後、大学界屈指の攻撃型ガードに成長した彼は、JBLの誘いを断り、アメリカで闘う道を選んだ。昨季は、マイナーリーグのABAでプレー。コーチの解雇や練習生への降格など、波乱が続いた。帰国後はU-24代表で練習を重ねているが、中川の目は、今、何を見つめているのだろう。

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──大学では、コーチからNBAのビデオを借りてよく見ていたとか。入学した頃からアメリカ挑戦を考えていたのですか。

中川 いや、考えてなかったですね。就職も考えていたので。やりたいことばかりやるのは無理かなって、そう思ってた。

──それでも決断したのはどうして?

中川 正直、それまで自分の気持ちに嘘をついていたと思うんですよ。親に金銭的な部分で負担をかけるのは悪いなって。そういう意味で我慢して考えないようにしていたけど、本当はやっぱり、バスケットボールプレイヤーとしてレベルの高い競争にチャレンジしてみたかった。そういう気持ちがどこかに隠れていた。そこでチャンスが(トライアウト合格という形で)ポンと来て、本当の自分が表に出たという感じですね。

──アメリカで過ごした3ヶ月を振り返って、そこにどんな意味があったと思っていますか。

中川 今までのバスケ人生、そんなに全部うまくいっているわけじゃないけど、自分としてはうまく行き過ぎな部分があったので、1回こういう惨めな思いをして……。

──惨めな思い。

中川 ……そうですね。でも、自分に何が足りないかを冷静に見つめ直す良い機会になったのかなって。

──中川選手はいつも、「自分が一番成長できる場所」を探していると言いますが、それはどこなのでしょうか。

中川 日本で、U-24代表で国際試合を経験すること。アメリカとは関係なく、日本代表でもそういう経験は積めるので。その後はやはり、アメリカだな、という気はしますね。

──具体的には動いているんでしょうか。

中川 まだです。とりあえず、ABAのトライアウト、特に東海岸のチームを何ヶ所か受けると思います。マネージャーもいるので、その人たちと話をしている段階ですね。今はとにかく、大会(ジョーンズカップ[7月]とユニバーシアード[8月])でどれだけ成績を残せるか。そういうスタッツは海外で通用すると思うので。

──アメリカという国にこだわりはない、ということですが。

中川 そうですね。結局、最高の存在であるNBAが目標なので。NBAがなかったら、アメリカには行かなかった。

──アメリカに闇雲に憧れているわけではない、ということ?

中川 そうそう。NBAがあるから行くわけで、NBAへの一番の近道はアメリカだから。NBAという目標がなければ、アメリカ(やABA)に行くつもりはないです。

──ABAでチームメイトだった宮田諭選手がJBLに入りました。JBLやbjリーグについては考えていますか。

中川 今は考えてないですね。そこまで考える余裕はないです。とりあえず、アメリカでやるしかないと思う。まずはトライアウトに受からないと。まだイメージ通りにいかなくて、ゲーム勘が全然ないんですよ。つまらないミスをしたり、状況判断が悪かったり。シュート練習すらしてなくて、ウェイトしかしてなかったから。

──代表合宿以外、普段はどこで練習を?

中川 (設備や環境が整っているので)普段は青山学院大学でやっていますけど、学生も基礎トレーニングの時期なんですよね。試合をやりながら慣らすというのもどうかと思うんですけど、どうしてもそうなっちゃいますね。ユニバーシアードまで、どれだけ感覚を戻していけるかですね。

──その後はABAのトライアウト。今年はABAでうまくやれそうですか。

中川 そうですね。去年は、まず何をすればいいのかわからなかったので。ぽんと出されて、皆自分の仕事をやっていて、「じゃあオレは何すればいいの」って。「とりあえずコートを走っとこう」という感じでしたから。そういう精神状態では、どこに行ってもやっていけないですよ。逆に、それをクリアできれば自分らしさが出していけるのかな、と思う。だから、自分が何をすればいいのか、プレーの選択も含めて、NBAを見て研究してます。そうやって少しずつ自分の中に引き出しを増やしていければ、今年はやっていけると思います。

──トライアウトの結果に関係なく、NBAに挑戦する気持ちは持ち続けていたいですか。

中川 今しかできないことだしやりたいです。3年、4年、それぐらいは無茶してみたい。

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 ABAで苦しんだことが、プラスになったのは間違いない。7月末のジョーンズカップでは、U-24として活躍。カタール戦で、23点、7リバウンド、5アシストをあげた。

 「強くなったな、という印象ですね」とU-24のアシスタントコーチ、山本明は言う。「体つきが変わったというのもあるけど、やはりメンタル的に強くなった。精神的な自信というのかな。(ABAを)見てきたことによって、落ち着きが出てきたと思う」

 心配なのはプレー以外の点だ。何よりも、英語が問題である。英語ができなければ、昨季のように、エージェント探しを含めた環境作りの面で大きく後退してしまう。

 インタビュー中、「惨めな」という言葉を口にして、目を泳がせた中川。その後、英語学習が進んでいないという話になり、会話が途切れた。しかし、「アメリカ人が彼女だったらいいんだけどね」と僕がくだらない冗談を言うと、「それが一番いいんですけどね、彼女いるから作れないすよ」と冗談で切り返し、にかっと笑った。

 英語力よりも大切なもの、それは精神の強さだ。逆境が続くが、この笑顔がある限り、中川はへこたれないだろう。

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