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日本代表 韓国戦の勝利の捉え方とは。 

text by

小尾慶一

小尾慶一Keiichi Obi

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photograph byPHOTO KISHIMOTO

posted2005/09/02 00:00

 日本代表は着実に成長している。問題は、しかるべき時にしかるべきレベルへ到達できるかどうかだ。

 それを考える上で、8月末に行なわれたキリンインターナショナルは興味深かった。リトアニア(FIBA世界ランク6位)、トルコ(18位)、韓国(20位)を招いたこの大会で、日本(23位)は1勝3敗、4チーム中3位に終わった。成績自体は決して褒められたものではないが、試合の内容には目を見張るものがあった。身体を張ったフィジカルなディフェンスは十分に通用したし、格上相手に毎試合、残り数分までもつれる接戦を演じた。そして、何よりも、アジア2位の韓国に勝った。

 かつてサッカーでそうであったように、日本バスケット界にとって、韓国は立ちふさがる大きな壁だった。

 「韓国は日本戦になると強いし、粘り強いところがあります」試合の前日、34歳のキャプテン、古田悟は取材陣にそう語った。「僕自身、勝ったのは、(97年の)世界選手権の予選ぐらいしかない」

 その韓国が、今大会にフル代表をぶつけてきた。国内リーグのトップ選手に加え、NBA選手のハ・スンジンや、NBAサマーリーグに参戦したパン・ソンユンら海外組を召集。若手を織り交ぜたトルコやリトアニア(それぞれ平均20.8歳、23.9歳)と違って、平均28.2歳というバランスの取れた布陣である。もちろん、韓国にとっての本番は9月のアジア選手権(世界選手権の予選を兼ねている。開催国の日本は出場決定済み)で、今大会はその前哨戦に過ぎない。それでも、日韓戦を単なる調整試合に終わらせるつもりはないようだった。韓国のヘッドコーチ(HC)を務めるチョン・チャンジンは、日本戦で審判の判定に激怒。試合を中断させて猛抗議を行なった。記者会見でも、「身体の当たりが強くなっているにも関わらず、審判の指摘がなく、笛が吹かれなかった」「無理な日程と、審判の判定とで、今回の大会で得たものは何もない」とコメントした。

 クロアチア人のジェリコ・パブリセビッチが日本代表HCに就任して、今年で3年。その真価を計る上で、これ以上の相手はいないだろう。

 大会中、日本と韓国は2度対戦した。初戦は77対72で韓国、最終日の3位決定戦では日本が64対63で勝利した。雰囲気に飲まれた第1戦に対して、第2戦の日本は、プレッシャーのかかる局面で気持ちが折れなかった。自慢のディフェンスに加え、不調だったオフェンスも機能。韓国の固いゾーンディフェンスを、アウトサイドから仲村直人や川村卓也らのシューター陣が3Pシュートで射抜き、インサイドでは205センチの竹内公輔が1対1で得点を重ねた。ハの不調やパンの故障退場に助けられた感もあるが、少なくとも、それまでの日本なら、終盤にミスを重ね、ずるずる引き離されていたはずだ。ジェリコは、「闘争心」と「精神力」の大切さを常に強調している。その教えが、いよいよ根付きつつあるのだろう。

 だが、一方、評価の物差しに韓国戦を用いること自体、問題であるとも言える。韓国はアジアの強豪であるが、世界の強豪ではない。今この時点で、韓国と五分に渡り合ったことをどう評価すべきか?これが、冒頭で挙げた「しかるべきレベル」なのだろうか?

 その答えは、来年の世界選手権をどう見るかによって変わってくる。関係者の多くは「決勝ラウンド進出」と期待しているが、そこに目標を据えられると代表チームは苦しい立場に立たされる。決勝ラウンドには参加24チーム中16チームしか進めない。つまり、誤解を恐れずに言えば、1年で世界16位以内に入らねばならないということなのだ。

 平均24.4歳の日本代表が花開くのは、さらに先、おそらく08年の北京五輪だろう。HC自身、そう考えている節がある。韓国に勝利した試合、1点差、残り37秒の場面で、コートに上がった選手の平均年齢は、韓国が29.8歳、日本は20.8歳だった。ライバル国が目先の1勝にこだわったのに対し、来年で契約が切れるジェリコは、将来につながる道を選んだのだ。

 「もちろん、常に勝ちを狙っていますが」と言って、ジェリコは顔をほころばせた。「試合の終わりを若い選手で闘えたことがとても嬉しい」

 日本が世界の強豪国になるのはまだ先の話だ。そして、我々がジェリコ・ジャパンを評価すべき時も1年後ではないのかもしれない。

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