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8−0と7−0、偉いのはどちらだ! 

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田邊雅之

田邊雅之Masayuki Tanabe

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photograph byAction Images/AFLO

posted2007/11/16 00:00

8−0と7−0、偉いのはどちらだ!<Number Web> photograph by Action Images/AFLO

 「うちの方がアーセナルより上だ!」

 イギリス人で、長らくリバプールファンをやっている友人から興奮気味のメールが届いた。話題にしているのは11月6日、CLのベジクタシュ戦で手にした勝利である。アーセナルは前節にスラビア・プラハを7−0で一蹴していたが、リバプールは8−0という最多得点差記録まで作ってしまった。

 この試合、ベニテス監督は4−1−3−2のフォーメーションで臨んでいる。中盤の底はマスチェラーノ、2列目にはベナユン、ジェラード、リーセを並べ、クラウチとボローニンに2トップを組ませる。コンセプトは明快。ジェラードの守備を軽減しつつ、攻撃陣をワイドで分厚く設定し、チャンスメークの回数を増やすというものだ。

 随分と思い切った手ではあったが、ベニテスの策は奏功した。久々の先発となるクラウチの得点を皮切りに、リバプールは前半に2点、後半には6点をもぎ取っている。さらにはベナユンのハットトリックというおまけまでついてきた。

 ファーストレグではベジクタシュに敗れ、グループリーグで2敗1分けと追い詰められていただけに、記者会見に臨んだベニテスの口調は滑らかだった。

 「これまでの試合でもチャンスはたくさん作っていたが、得点につなげられなかった。今日は早い時間帯に得点を決め、そこから試合が活性化した。ベジクタシュも予選通過のチャンスを繋ぐために攻撃を仕掛けなければならなかったが、それがこちらのFWにスペースを与える結果になった。ストライカーも非常に調子が良かった。得点が決まれば自信も生まれてくる。そこが最近の試合との違いだ」

 だが、これで完全復活したと喜ぶのは早計だろう。ベジクタシュ戦では相手が途中から引き気味になったため、前線まで簡単にボールを運べたし、守備的MFが1枚でもなんとか攻撃をしのぐことができた。しかし中盤の構成力のなさと守備の脆さという問題は、依然として解決されていない。

 今季のリバプールは、ボローニン、カイト、トーレス、クラウチ、バベルとFWが揃っているが、中盤から左右前方にパスをさばくシャビ・アロンソが故障続きのため、攻撃を組み立てるのに苦労している。また、欠場中のアッガーに代わってヒッピアがCBを務める守備陣は、強さの点でもスピードの面でもライバルチームより明らかに見劣りする。

 事実、ベニテスは10日のフラム戦(プレミアリーグ)にベジクタシュ戦と同じメンバーで臨んだが、内容はお世辞にも合格点を与えられるものではなかった。2−0で勝ちは拾ったものの、得点は交代出場したトーレスの個人技と、いささか判定に疑問の残るPKによるものだけだった。

 こうして見てくると、同じCLの大勝でも、アーセナルの7−0の方がはるかに中身は濃かったといえる。4−4−2(あるいは4−6−0、極論すれば2−8−0や2−7−1と表現した方が、プレーの実態は把握しやすいと思う)でパス交換とポジションチェンジを行いながら、速攻・遅攻を問わずに、回して繋いでチャンスを作る。アーセナルはCLでもプレミアと同じスタイルを貫いていた。しかもスラビア戦の7−0は、ファン・ペルシがいない状態で勝ち取ったものである。対戦相手の「格」はベジクタシュの方が上だったかもしれないが(UEFAランキングでは、ベジクタシュが58位でスラビア・プラハが80位)、シャビ・アロンソやアッガーの欠場がリバプールに与えるダメージの強さと、ファン・ペルシの負傷がアーセナルに及ぼす影響の大きさとでは比較にならない。

 今季開幕時、リバプールはマンUやチェルシーを抑えて、本命になるのではないかと噂されていた。だが蓋を開けてみれば、完全な期待はずれに終わっている。それどころかアーセナルとはまったく逆の形で、「FWの数=攻撃力」でないことを示してしまった。

 ベニテスは語っている。

 「若い選手、才能のある選手と契約を結ぶことはできるが、潜在能力が開花するまでには時間がかかる。ベンゲルは若い選手を2・3年使い続けてきた。そして今、彼らは才能を発揮して本当にいいプレーをするようになった。我々が行おうとしているのも同じことだ」

 しかしベニテスとベンゲルでは、選手補強に使った額が違う。このままの状態が続けば「欧州屈指の戦術家」という評判は名折れになるし、リバプールファンでさえ、ベジクタシュ戦の8−0など一瞬のうちに忘れてしまうに違いない。

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