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内藤の“誤算”と亀田の“計算”。
新王者はパッキャオになれるのか? 

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渋谷淳

渋谷淳Jun Shibuya

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photograph byKohei Yauchi

posted2009/11/30 11:20

内藤の“誤算”と亀田の“計算”。新王者はパッキャオになれるのか?<Number Web> photograph by Kohei Yauchi

 亀田興毅と内藤大助の一戦は、亀田が大差の判定勝利を収め、2階級制覇を達成した。試合は概ね亀田の思惑通りに進み、4~6ポイント差という予想外の大差がついた。

 亀田の思惑。それは徹底したアウトボクシングである。試合後の記者会見で、本人がストレートに明かした。

「距離を取って戦うことを心がけて。自分の距離を最後まで保とうと思った」

 なぜか。まず、距離を取って戦えば、相手のパンチを被弾するリスクを回避できる。亀田は決して打たれ強いボクサーではない。3年前、初めて挑んだWBA世界ライトフライ級の王座決定戦では、さして迫力のない技巧派のベネズエラ人、ファン・ランダエタのブローでダウンを喫している。

手数の少ないブーイングだらけの試合になる可能性もあった。

 内藤はここ最近KO勝利から遠ざかっているとはいえ、元々は国内フライ級きってのハードパンチャーで、パンチを急所に当てる“当て勘”に優れた選手だ。互いのパンチが当たる距離での打撃戦を「不利」と判断したのは理にかなっていた。

 ただし、攻撃面に目を向けると喜んでばかりもいられない。亀田の選択したカウンター攻撃は、内藤が前に出てきた瞬間、あるいはパンチの打ち終わる一瞬を突き、相手の力を利用してクリーンヒットを狙うスタイルだ。つまり、タイミングをうまく計れないと、照準を定める作業に終始して手数が減る。さらには、相手がカウンターを恐れて待ちの姿勢に入ると、互いに手を出さないブーイング必至の試合になってしまうのだ。

 事実、亀田の手数は少なく「攻撃的でない」という印象を我々に与えた。内藤が仕掛け、会場がドッと沸いた場面でも、その熱に冷や水を浴びせるかのようにクールな振る舞いを見せた。そして「攻撃的ではなかった」ゆえに、亀田はチャンピオンベルトを手にしたのである。

「取り返そうと思って後半は前に出て行ったんですけどね。(ジャッジに)認めてもらえなかった。しょうがない」

 敗れた内藤は試合後、憮然としながらマイクを握った。「ジャッジの下した結果がすべて」と繰り返しながら、採点への不満はありありだった。

亀田が最後までアウトボクシングを貫いたという内藤の誤算。

 内藤の誤算。それは亀田がアウトボクシングを最後まで頑なに貫いたことだった。

 言い訳を嫌った内藤に代わり、野木丈司トレーナーは次のように答えている。

「相手は怖がって打ち合ってきませんでしたけど、内藤は殴り合って試合を盛り上げて勝とうと考えていましたから。そういう意地があったと思いますよ。もちろん、今日の亀田くんのようなボクシングはボクシングとして、評価はできるんですけど」

 試合前、内藤はことあるごとに「ファンの喜ぶ試合、面白い試合がしたい。それは殴り合いでしょ」と口にしていた。言葉通り、内藤は前半から積極的に前に出た。まるで挑戦者のように手数を出して攻めた。そして、しっかりと距離をキープする亀田に右ストレートは届かず、得意のフックも空を切った。逆に時折もらってしまう左のショートストレートによってポイントを失った。スピードで劣勢を強いられたところも痛かった。最後まで亀田を打撃戦の土俵に誘い入れることはできなかったのである。

「途中からこちらもカウンター攻撃に切り替える選択肢もあった。でも、内藤らしく、殴り合いでいこうと」(野木トレーナー)

 内藤は試合を盛り上げようと過剰に意識した。それが自らの責務だと考えた。だからこそ亀田の「盛り上がらないボクシング」に憤りをにじませたのだ。

【次ページ】 亀田は「勝つこと」のみに徹したスタイルだったが……。

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