佐藤琢磨 グランプリに挑むBACK NUMBER

スーパーソフト 

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西山平夫

西山平夫Hirao Nishiyama

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photograph byMamoru Atsuta(CHRONO GRAPHICS)

posted2007/08/08 00:00

スーパーソフト<Number Web> photograph by Mamoru Atsuta(CHRONO GRAPHICS)

 会得する、という言葉がある。物事をよく理解するという意味なのだろうが、どこかに肉体的経験を通じて、というニュアンスが感じられる。手応えを経ての自得、そんな感じの言葉に受け取れる。

 ハンガリー・グランプリ後の佐藤琢磨のコメントをメモしながらこの会得なる一語を思い出していた。キーワードは「タイヤ」である。

 19番グリッドからのスタートは「スーパーアグリ始まって以来(笑)」というほど出だしがよかった。1〜4コーナーでライバルとサイド・バイ・サイド。4コーナーでコースオフしたフェラーリのマッサを5コーナーで抜き、琢磨は15位でオープニングラップを終えた。

 そこまではよかったが、その後がつらかった。70周レースの途中まで走れるほどの多量の燃料を積んでいたためにマシンが重く、走りがままならぬ。コーナリングのたびにタイヤが滑って熱を持ち、グリップが落ちるのだ。理想のハンドリングからはほど遠いが、ガマンして走るしかなかった。タイヤはブリヂストンが供給するソフト、スーパーソフトのうち、硬い方のソフトである。

 しかし、32周目に最初のピットインをしたあたりからずっと走りやすくなったという。補給したガソリンが二十数周分で、スタート時よりはずいぶん身軽になった。加えて路面にタイヤのゴムがこすり付けられて皮膜ができる、いわゆる“ラバーコーティング”によって、自然にタイヤのグリップが強くなる。

 さらに55周目、2回目のピットストップでタイヤをソフトからスーパーソフトに換えた時には「驚くべきことが起きた」という。タイヤがガッチリと路面を噛んで「横にも縦にも滑らず、トラクション・コントロールが要らない(起動しない)」ほどだったという。ラバーコーティングがさらに進んだ路面と、第1、第2スティントで使ったソフトよりさらに柔らかいスーパーソフトが抜群の相性を見せたのだ。

 「これなら第2スティントからスーパーソフトを履いてもよかったかもしれません。最初のスティントで使ったソフトは表面が熱くなっていても内側が芯から温まってないから、空気圧の上がり方が悪く、本当のグリップは出ない。いったんそうなると二度とグリップは戻って来ないんです。ところが最後に履いたスーパーソフトは芯からポカポカ温まって、信じられないくらいグリップがよかった」

 琢磨は66周目に自己ベストタイムを出したが、これは全体の最速ラップ中10位にあたるもの。終盤のラップタイムは粒揃いだった。もし予選ポジションが良く(最終コーナーで横風に煽られコースオフして19位)、第2スティントからスーパーソフトを履いていたら……と、空想が広がる。そういう意味では口惜しい週末だったが、リベンジのチャンスが3週間後に待っている。第12戦トルコ・グランプリは高熱のコンディションで、タイヤにはきびしい。そこがチャンスだ。

 常に資金難にあえぐスーパーアグリ・チームは今後、ハードウェアのアップデートがあまり期待できない。しかし“ありもの”の使いようによっては戦闘力がグッと高まる、そんなことを会得した佐藤琢磨のハンガリー・グランプリだった。

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