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【アーセナルvs.マンU/2ndレグ】
“フォア・ザ・チーム”を目指した
ふたりの指揮官。
 

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山中忍

山中忍Shinobu Yamanaka

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photograph byMatthew Peters/Manchester United via Getty Images

posted2009/05/07 11:00

【アーセナルvs.マンU/2ndレグ】 “フォア・ザ・チーム”を目指したふたりの指揮官。<Number Web> photograph by Matthew Peters/Manchester United via Getty Images

 5万5千人を超すサポーターが、赤白のチームフラッグを振りながら歌うエミレーツ・スタジアム。アーセナルの本拠は希望とエネルギーに満ちていた。“ヤングガナーズ”が、1stレグで背負った1点のハンディを跳ね返して、「赤い悪魔」ことマンチェスターUを倒す。そんなシナリオも現実的と思われた。前半8分までは……。

 アウェーで青いユニフォームに身を包んでいても悪魔は悪魔。ここ一番でのマンUは非情だった。立ち上がりから攻勢に出たアーセナルに対し、抜群のスピードを誇るC・ロナウドを1トップに据えたマンUは、紛れもないカウンター狙い。「一撃必殺」の戦術は、相手左SBギブスの転倒に乗じてパク・チソンが決めた先制点となって早々に実を結び、アーセナルから精気を奪った。勝敗が決したのは、それからわずか3分後の11分。セスクのパスミスを拾ったC・ロナウドは、直後のFKから40m弾を相手ゴールに叩き込んだ。61分には、ファン・ペルシーを左サイドから前線に上げてさらに前掛かりになった敵をあざ笑うかの如く、目の覚めるようなカウンターから追加点を奪っている。アーセナルは、76分にPKで一矢を報いるのが精一杯。マンUが、3-1(合計4-1)の大差で決勝の地ローマへと歩みを進めた。

“チームワーク”を目指し、“チームワーク”に敗れたベンゲル。

 「マンUは2試合とも勝者に相応しかった」。試合後のベンゲル監督は沈痛な面持ちで語った。ベンゲルと言えば、宿敵のファーガソン監督に勝るとも劣らぬ負けず嫌い。過去の敗戦では、怪我や判定といった外的要素が敗因として挙げられることも珍しくなかった。だが、今回ばかりは勝気な智将も完敗を自認。そればかりか、自軍のPKを呼んだフレッチャーのファウルに、「一発退場は酷」と同情まで寄せている。試合前には「我々の持ち味である集団としてのパフォーマンスが物を言う」と発言しておきながら、敵に「チームワークの何たるか」を見せ付けられてしまったのだから、潔く敗北を認めるしかない。

 勝者の中で、ルーニーほど「フォア・ザ・チーム」の精神を体現していた選手はいない。初戦に続いて左サイドで先発したマンUの「10番」は、この準決勝でのMVPと言ってもよい。その貢献度の高さは、1stレグで攻撃をリードしたテベスや、2ndレグで2ゴール1アシストのC・ロナウドをも上回る。自陣内のタッチライン沿いでウォルコットに張り付く姿はSBのエブラも顔負け。いざマイボールとなれば、一気に前線に駆け上がって相手DF陣をアウトサイドに誘き出し、C・ロナウドに進入経路を提供していた。

 ルーニーがアシストを演じたマンUの3点目は、単なるダメ押し点という以上に、ベンゲルにショックを与えたに違いない。C・ロナウドのバックヒールに始まり、ドリブルに入ったルーニーが逆サイドを疾走するC・ロナウドにラストパスを送った敵の連係には、指揮官がアーセナルに求めるテクニック、シンプルさ、ビジョン、献身さ、ゴールへの意欲といった全要素が集約されていたのだから。同時にスタンドでは、アウェー陣営が「ローマに行くんだ!」と小躍りし、ホーム陣営が席を立ち始めた。アーセナルは、61分をもってピッチの内外で完全に敗れ去ったのである。

“赤い悪魔”が本来の冷酷さを取り戻してしまった。

 マンUが示した慈悲は、敗軍の将に対する勝利監督のねぎらいぐらい。ファーガソンは、「欧州制覇が偉大な監督の証というわけではない」と試合後にベンゲルを気遣った。しかし、そのファーガソンによる戦評は、「個人ではなく集団としての勝利」と、皮肉にもベンゲルが口にしているはずのセリフそのもの。マンUは、1stレグでの甘さを補って余りある冷酷さで敵の息の根を止め、決勝進出を果たしたのだった。

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