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【チェルシーvs.バルセロナ/2ndレグ】
奇跡の、ラスト1分。
 

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中嶋亨

中嶋亨Toru Nakajima

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photograph byJamie McDonald/Getty Images

posted2009/05/07 12:30

【チェルシーvs.バルセロナ/2ndレグ】 奇跡の、ラスト1分。<Number Web> photograph by Jamie McDonald/Getty Images

 5月6日(ロンドン現地時間)、チェルシーとバルセロナはCL準決勝第2戦目をチェルシーホームで戦った。1戦目は守備に専念して0対0に持ち込んだホームのチェルシー。しかし、2戦目は堅守からのカウンター攻撃でバルセロナ陣内深くに攻め込むと、前半8分にMFエシアンのゴールで先制した。一方のバルセロナは1戦目同様にチェルシー守備網を崩しきれずに90分間ゴールを奪えず、準決勝敗退が目前に迫っていた。

 ところが、もはや勝負が決したかと思われたロスタイム、MFイニエスタの放ったミドルシュートが全てを変えた。ほぼ残り1分でネットを揺らした同点ゴールによって、アウェイゴール数で上回ったバルセロナが決勝戦への切符を獲得した。

10m高くなったチェルシーの最終ラインが完璧に機能した。

 バルセロナに60%以上のボール保持率を許しながら、試合の主導権を握っていたのはチェルシーだった。1戦目と違っていたのはチェルシーが築いた守備ブロックの高さとボール奪取後の攻撃への姿勢だった。1戦目はペナルティエリア手前まで最終ラインを下げ、攻撃を捨てたチェルシーだが、勝利以外は許されない2戦目は1戦目よりも10mほど高い位置に最終ラインを保とうとし続けた。

 スペースの奪い合いに半歩遅れれば、たちまち崩壊しかねないギリギリの守備網を張ったチェルシーだが、中盤と最終ラインの連係プレーは一糸乱れず。互いがサポートし合える距離を保ち続け、スペースに侵入してくるバルセロナ攻撃陣を包囲してボールを奪い返した。

 さらにバルセロナ両SBがオーバーラップした後方のスペースへとボールを展開し、ほんの数秒前まで守備に奔走していたバラック、ランパード、エシアンが鋭く攻め上がるとバルセロナは慌てて帰陣せざるを得なくなった。そしてチェルシーの攻守における果敢なプレーは、前半8分に実を結ぶ。左サイドから攻め上がると、ランパードが放ったシュートはペナルティエリア手前にこぼれ、そこをエシアンがダイレクトでゴールに突き刺したのだ。

 高い位置でバルセロナの攻撃を阻み、そこからのカウンターでゴールを狙うという策士ヒディンクの“賭け”は、チェルシーイレブンの組織力とエシアンのビッグプレーによって見事に的中したのだった。

退場者、疑惑の判定……バルサは死に体だった。

 一方、窮地に追い込まれたバルセロナは粘り強くボールを繋ぐものの、厳しいプレッシャーを受けながら放つセンタリングやシュートは精度を欠いてゴールを脅かすことができず。それどころかチェルシーの鋭いカウンターを浴び続けると、後半22分に最終ラインを突破したアネルカを左SBアビダルが倒したとされて一発退場。さらに後半40分にはペナルティエリア内でCBピケの手にボールが当たり、万事休したかに思われた。

 しかし主審はPKの判定を下さず、バルセロナは同点にわずかな可能性を残したままロスタイムを迎えた。そして4分のロスタイムのうち3分が経過しようとした時、奇跡が起きた。

 右SBアウベスが放った鋭いクロスのリバウンドがチェルシーペナルティエリア内にこぼれる。これを拾ったバルセロナはメッシにつなぐと、メッシは右後方に走りこんできたイニエスタにパスを送った。チェルシー守備網はペナルティエリア内でボールを持ったメッシに一瞬引き付けられた。そこに生じたシュートコースへとイニエスタはダイレクトでシュートを放つ。スライスしながら飛んでいくボールがGKチェフの指先を通り過ぎ、ゴールネットが揺れた瞬間、追い詰められていた者と追い詰めていた者の立場が逆転した。

 決勝への切符を目前で逃したチェルシーの面々は一様に主審の判定を非難した。試合後に主審に詰め寄ったFWドログバは「こんな恥知らずな判定があるか?!」と怒りを露にし、ヒディンク監督は「こんなひどい判定は初めて見た。我々には少なくとも3度のPKが与えられるべきだったのに、全てが見逃された。だが、ここまで戦ってくれた選手達を誇りに思っている」と語った。

 一方、起死回生のゴールを決めたバルセロナMFイニエスタは「夢を見ているんじゃないかと思う。ただ、チームは最後まで決勝進出を諦めなかった。ゴールを決めたのは自分だったが、これは全員で勝ち取ったゴールだし決勝進出だ」と興奮した口調でコメントした。

チェルシーによる“攻撃のための守備”は賞賛に値する。

 最後の1分で全てを失ったチェルシーだが、ここまでバルセロナを追い詰めた彼らは賞賛に値する。史上最強とまで謳われた今季のバルセロナに対して一瞬たりとも気の緩みを見せず攻撃を阻み続け、さらに逆襲に打って出ることができたのはチェルシーだけである。スペインにはチェルシーを“非フットボール的”だと批判する声もあるが、2戦目にチェルシーが披露した“攻撃を仕掛けるための守備”はバルセロナのそれと何ら変わらない。試合を通じてたった1度の枠内シュートをゴールに繋げたバルセロナに対し、4度の枠内シュートを放ち、3度もPK獲得に近いプレーを生み出したチェルシーは果敢に攻め続けた。そんなチェルシーを退け、クラブ史上6度目のCL決勝戦進出を果たしたバルセロナ。決勝の相手マンチェスター・ユナイテッドもチェルシー同様に積極的な守備からのカウンターでバルセロナに襲い掛かってくるだろう。

 果たしてバルセロナとマンチェスター・ユナイテッドのどちらの“攻撃”が欧州王座を勝ち取るのか。それは5月27日、ローマで明らかになる。

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