佐藤琢磨 グランプリに挑むBACK NUMBER

明るくなった表情 

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西山平夫

西山平夫Hirao Nishiyama

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photograph byMamoru Atsuta(CHRONO GRAPHICS)

posted2005/08/25 00:00

明るくなった表情<Number Web> photograph by Mamoru Atsuta(CHRONO GRAPHICS)

 「ここがボクにとっての後半戦の幕開けなので、夏休みでリフレッシュしてグランプリを楽しみにして来ました。前半戦の終わりに1点取ったので、ここから勢いよく行ければいいですね」

 イスタンブールパーク・サーキットで3週間ぶりに見る琢磨の表情は明るかった。

 夏休みの3週間はまずイギリスからモナコへの引越しに忙殺された。

 「大変でした。イギリスには1998年から7年間住んだのですが、2000年まではホームステイしてたのでスーツケース2個にハンドバックくらいしか持ってなく、荷物は増えなかった。2001年から一軒家に引っ越して、ここは家具付きの家だったからそんなに荷物が増えたように思わなかったけど、いざ整理を始めてみると出るわ出るわ(笑)、モナコに着いてしばらくはダンボール生活でした」

 そんなふうに引越し荷物の多さにへきえきした様子を語るが、なにかそれさえも楽しいといった表情である。

 心機一転のモナコ生活は「毎朝起きると真っ青!」で、太陽のありがたさを痛感するという。

 木曜日にイスタンブールパーク・サーキットについての印象を訊くと「“ターン8”がフィジカル的にもきびしそう。250km/h近辺でコーナリングするんでしょうが、4Gの横Gが7秒間くらい続くと思います。息がつけないでしょうから、走る前から恐ろしい」と言いながら、これまた笑顔である。体重60kgで4Gを受けるというのは右横から240kgの重さが数秒間押され続けるということである。

 しかし、さすがにF1パイロット。金曜日の試走が終った後はケロッとしていた。

 「ターン8はいままでにないタイプのコーナーで面白い。息もつけました(笑)。攻めがいのあるサーキットですね。フェラーリにもついて走ったんですが、追いついて行けましたからレースでも接近して走れるかもしれませんね」

 タイムも悪くない。金曜日、ユーズドタイヤで10位。土曜日午前中は6位。

 ところが予選発進は13番手と好順位ながら、ターン8で痛恨のオーバーラン!琢磨の3番後にアタックしたチームメイトのバトンも同地点で同じくコントロールを乱し、バトン13位、琢磨14位。

 「スピードが乗った分バンプが大きく感じ、マシンがボトミングを起こしてアンダーステアが出た」のがコースオフの原因だった。

 これには伏線があって、午前中のセッション最後に行う新品タイヤを履いての予選シミュレーションが、コース渋滞のためにできなかったのだ。むしろそこでコースオフしていれば失敗はなかっただろう。

 アタックの失敗に加えて、不運もあった。無線の故障でチームと交信できず、後ろから次のアタッカー、ウエーバーが迫るのに気付くのが遅れ、接近遭遇。これが走路妨害と取られ、タイム抹消。

 最後尾からピットスタートを選び、1回ストップの奇策も成功して前車を抜きまくり上位に進出したが、ポイントまであと一歩の9位。予選がまともなら……と悔やまれる一戦だった。

 しかしレース中のラップは安定しており「ワンポイントに届きませんでしたが、楽しいレースだったから思ったより疲れませんでした」と、顔がほころぶ。

 佐藤琢磨の表情が明るくなった時はライバル達の要注意の時だ。琢磨がリズムを取り戻して攻勢に出ようとしている。

 「次のヨーロッパ、そして鈴鹿につながるいい内容のレース」をした琢磨の2週間後に注目したい。

佐藤琢磨

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