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Vol.5 竹下佳江 揺るがぬ存在意義 

text by

宮崎恵理

宮崎恵理Eri Miyazaki

PROFILE

photograph byMichi Ishijima

posted2007/11/13 00:00

Vol.5 竹下佳江 揺るがぬ存在意義<Number Web> photograph by Michi Ishijima

 「三位一体」。

 柳本監督は、主将の竹下佳江、高橋みゆき、そして監督自身の3人のことを、こう、表現する。

 北京五輪への出場権がかかるワールドカップ、第7戦となるポーランド戦を控えた朝、柳本監督は、竹下と高橋と3人で、ほんのひととき、ミーティングを行った。

 「小さいというハンデも、かつて(シドニー)オリンピック出場を逃したという苦い挫折も、何もかも、乗り越えて、ここまで来たんやろ。それでも、世界と戦って、力を見せつけてもきたんやろ。その自信を、もう一回、コートで見せてみろ」

 ワールドカップが開幕し、これまでに、日本はドミニカ共和国や韓国、タイなどを順当に降しながらも、セルビアとイタリアには敗北を喫していた。セルビア戦は惜敗とも言えるが、第2ラウンドの大阪では、イタリアに完膚なきまでたたきのめされてしまったのである。

 どうしても、ポーランド戦は落とせない。でも、コートの中で、何かチームの歯車がもう一つ噛みあっていないもどかしさが、竹下と高橋に、ずっとつきまとっていた。前日に行われたペルー戦で、日本は3−1で勝利したものの、前半の5戦までに1セットさえ取ることができずにいたペルーに、日本は1セットを献上した。日本にとっては、手放しで喜べない試合内容だったのだ。

 「Aキャッチで上がってきたボールをスパイカーに気持ちよく打たせるのは、当たり前。B、Cキャッチだったり、スパイクレシーブなどの乱れたボールを、どれだけAキャッチと同じクォリティで上げられるか。それこそが、今の私の使命」

 ワールドカップが開幕してから、竹下は、こう言い続けてきた。

 ペルー戦の第2セットで、竹下は、自チームのエンドラインを越えるばかりに弾き飛ばされたボールに食らいつき、そこからレフトにいる高橋に向かってアンダーで大きな二段トスを上げた。高橋は、それを振り向きざまに相手コートのストレートへと打ち込んだ。高橋が言う。

 「あの時のテンさんのトスは、パーフェクトだった。あの1本で、私は、自分自身の中で何かがずれている感覚が、ピシッと元に戻ったような、そんなフィーリングをつかんだ」

 そうして迎えたポーランド戦。日本は、まず第1セットを、25−19で落としてしまう。その後、第2セットを25−23で取り返したものの、第3セットは、またしてもポーランドに取られた。もう、後がない。

 ポーランドのサーブから始まった第4セットで、木村がレフトから強打を放ち、高いブロックをはじいて1点目を決めた。

 「沙織の波が、来た」

 竹下は、見逃さなかった。1回目のテクニカル・タイムアウトも、木村のバックアタックで日本が勝ち取ると、竹下は、そのまま立て続けに木村にトスを上げ続けた。レフトから、ライトから木村は強打を打ちまくった。バックアタックやセンターと絡めた時間差での速攻も決めた。

 「リズムが来ている選手にボールを集めることで、チーム全体が走り始める」

 竹下の采配通り、日本は1つずつ得点を積み重ねていった。木村が連続で何本ものスパイクを決めると、荒木や杉山が呼応するように速攻を決める。さらには、栗原が絶妙なブロックアウトで得点につなげる。チームの歯車が、完全に噛みあい、回り始めた。そうして、日本は、第4セットを25−22で乗り切ると、最終セットも15−12で、ポーランドを降したのだった。

 「苦しい展開の中で、それでもスパイカーたちがみんな決めてやる! という強い意思を、私に投げかけてきてた。どうしても、決めさせてあげたかった」

 トスによって相手ブロックをノーマークや1枚に分散させたり、崩れたボールをつないでスパイクを打たせて得点するなどのファインプレーの数は、セッターのテクニックの高さを示すデータである。味方の得点につながったトスの数値は、スパイカーの決定打数などと同様に、ゲームスコアに記録されるのだ。竹下は、負けたセルビア戦、イタリア戦でも、そして激闘を勝ち取ったポーランド戦でも、1セットあたり10本以上もの優れたセットアップを繰り出している。

 チームを生かし、ゲームを作る。セッターとしての、そして主将としての存在意義。竹下に揺らぎはない。

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